記憶のかけらー衣文

フランスの大聖堂を訪れると扉口上部のタンパンが迎えてくれる。そこには、聖書の一場面が立体的に描かれている。かつて、文盲の多かった庶民をキリスト教へと誘ったであろう。巡礼を終えパリ南部のVezelayを訪れた。サント・マドレーヌ・バジリカ聖堂”のタンパン”は「精霊降臨」であった。中央のキリストの纏う衣の衣文はたばしる奔流を思わせる。この場面が何を訴えかけているのかは関係なくしばらくの間無言で立ち尽くした。

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2018年6月11日 まずはタンパン フランス/Vezelay after「ル・ピュイの道」

ところで、このタンパンは12C創建時のもので何かの事情で堂内に移設された。建物正面のタンパンはその後に新設されたものだそうだ。ご注意、ご注意! 

 

巡礼路要所の古都Leonレオン。見所はゴシック様式のカテドラル、ロマネスク様式のサン・イシドロ教会、ルネサンス様式のサン・マルコス修道院そしてガウディのカサ・デ・ボディネス。修道院の前で瞑想している巡礼者が目に止まった。膝のテカリ、そしてその間に垂れ下がった衣文、色々なことを語りかけてくる。

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2012年9月18日  何を語りかける スペイン/Leon 「フランス人の道」

 

ポルトガルの漁師町Nazareナザレでは独特の習慣や服装が残されている。特に年配の女性の服装は印象的である。既婚の女性は七枚重ねの短いスカートにエプロンの姿で漁に出ている夫の無事を祈る。未亡人は黒づくめ。エプロンの衣文は若い女性には受けないであろう。この伝統はいつまで続くのだろうか。

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2013年6月2日 いつまで続く伝統 ポルトガル/Nazare after「ポルトガルの道」

 

日本でも仏像を中心に衣文に見惚れたことが多々ある。その中でもギンザグラフィックギャラリーで出会った作品の衣文、そして上野の法隆寺宝物館の「摩耶夫人および天人像」の衣文が脳内に記憶のかけらとして残っている。

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2019年5月25日 時が流れても 東京/銀座 街歩き

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2019年3月20日 釈迦誕生の瞬間 東京/上野公園 街歩き

 

「漂えど沈まず」と言ったのは釣り好きの開高健だった。

もともと「たゆたえど沈まず」と言うパリ市の標語があると言う。確かにパリという街は歴史の暴力に晒されながらもその輝きを失わなかった。東京はどうだろうか。日本のものづくり技術はどうなのだろうか。新型コロナウィルスは、東京と日本をどう変えるだろうか。

   「寡黙なる饒舌」若山滋/現代書館