出会った橋ー北の道-2
5月29日,ビルバオ川の右岸を河口に向かって進む。一時間ばかり歩くと前方に川を跨いで鉄骨のゲートが出迎える。ビルバオ出身のエッフェルの弟子が設計し1893年に完成した世界初の運搬橋のビスカヤ橋である。嘗ては産業都市として栄えたビルバオに出入りする船の運航を妨げないとして考えられた橋である。今でも現役であるが世界遺産として観光資源にもなっている。
約45mの高さの橋桁から鉄のワイヤーで吊り下げられたゴンドラが人や車を載せて対岸に往復する仕組みである。現在でも重要な交通路として機能しているのか24時間運航されている。
エレベーターで橋桁の上に上ると歩いて対岸に渡れる。展望台として観光客を集めたかったのか。因みに現在ゴンドラは€0.40であるが、ここに上ると€8も取られる。
この橋をモデルとして世界各地に運搬橋が建造されたとのことである。しかしながらこの類の橋に出会ったことは無い。日本では同じ目的として1940年建造の勝鬨橋等の開閉橋がある。面白い工作物に出会えた。
私が出会ったノンフィクションミステリー。巡礼路は対岸の左岸に続く為、橋の手前の渡し船で左岸に渡る。バルで朝食を採った後にtourismoにバックパックを預け、上部の橋桁の上を行き来しながら眺望を楽しんだ。1時間ばかりの滞在の後 に 荷物をピックアップし 、ビスカヤ橋を後にし巡礼路を先に進んだ。ところが、いくら歩いても帆立貝のサインが目に入らない。出会った地元の人に尋ねると巡礼路は対岸だと言う。橋まで引き返しtourismoの人に再確認した。スペインでは時としてこの再確認が欠かせない。分からないと言わないことがスペイン流のおもてなしである?橋を渡った向こうの道行けと言う。取り敢えず対岸(私は右岸との認識) に渡り、言われた道を進みやっと巡礼路に復帰できた。歩きながら何度も思い返したが???
帰国後、地図を見ながら何度か思い返すが、川を渡ったのは渡し船での左岸への一度との記憶しかない。出来る事ならもう一度 ビスカヤ橋を訪ねてみたい。
6月3日街全体がナショナルモニュメントに指定されている宿泊予定のSantillana del Marに到着する。街全体がナショナルモニュメントに指定され中世の面影を色濃く残す町である。しかし、ごった返す観光客にうんざり。宿 に荷を置き世界史の授業で出会ったアルタミラ洞窟へ向かおうとしたが、宿のチェックインが4時だと言う。明日のガウディとの出会いとアルタミラのレプリカの壁画を秤にかけ街を後にした。
前日、約10km多く距離を稼いだおかげでComillasのガウディ「気まぐれ亭」エル・カプリチョには早朝訪問できた。「フランス人の道」のAstorga,Leonに次ぐ バルセロナ以外でのガウディとの出会いである。昨日の英断のお蔭で管理人のガイド付きで2時間に渡り独占することができた。
6月12日,計画より1日先へと進んでいることもあり約20kmを予定。色々考え事をしながらハイキング気分で歩いていたら、サインを見過ごしていたらしくルートを外れ海岸に出てしまった。地元の人に聞き一山超えて無事巡礼路に復帰できた。時間的に余裕があったこともあり焦りは感じなかった。
高架の自動車道と歩行者専用道が並行して走る河川敷を進む。地面の上を歩いているが、雨季には高架の歩道橋を歩くのであろう。しかし、子供の工作のような橋脚?を眺めているとどうも心もとない。地震の心配が無いので取り敢えず荷重を支えられれば良しとするのか。
全国的に高速道路網が整備され、こうした北辺の地でも巡礼路は高速道路と絡み合いながら続く。構造がスレンダーなせいも有り、全く威圧感を感じさせず無理なく自然の中に溶け込んでいる。
海岸沿いに進んでいた巡礼路がRibadeoでSantiago de Compostelaに向かって内陸に向かう。大きな川の河川敷で餌を啄ばむ鳥達の先に橋が見えてきた。遠目には川のスケールに不釣り合いな姿をしている。四国の遍路道で出会った越流橋の様に見える。
近づいて橋を見上げると至ってシンプルな構造である。いつものことながら心もとない。それはそうと、ものを裏側から見ると意外なモノが見えてくる。
Arzuaで「フランス人の道」に合流する。翌日6時過ぎに宿を出る。サマータイムを実施しており日本で言えば5時過ぎである。前方の橋上、朝霧の中を先行する巡礼者が見える。
何でも無い風景であるが印象に残った。2年前に歩いた時の記憶にはこの橋は浮かんでこない。
これも随分前のはなしだが、前の晩にテレビで見た野球の試合を、朝必ずスポーツ新聞を買って確かめる人を、勿体ないじゃないの、お金と時間の無駄使いだと言ったことがあった。
その人は、私の顔を見て、
「君はまだ若いね」
と言った。
「野球に限らず、反芻が一番たのしいと思うがな」
旅も恋も、その時もたのしいが、反芻はもっとたのしいものである。ところで草を反芻している牛は、やはり、その草を食べたときのことを思い出しながら口を動かしているものであろうか。
「向田邦子ベストエッセイ」 向田邦子 ・向田和子編/ちくま文庫