記憶のかけら–私の先達
一人旅ではその行動を自分の判断に依存することになる。巡礼路には多くの人の手によるある約束事に従って聖地までの導きとなる標識が整備されている。その標識こそ私の先達さんです。決して一人旅ではないのです。
「伊勢路」では地元の方々の努力で参詣路の整備が続いている。標高628mの八鬼山越は峠越えの連続する「伊勢路」最大の難所と言われている。しかし、一丁(108m)ごとに標柱が整備されており、その標柱を追って歩いているうちに63番目の標識の前に立っていた。7km弱の山行であった。
2012年9月5日 Los Arcos スペイン「フランス人の道」
スペインでは街に入ると足元に帆立貝のマークが続き宿舎のある旧市街へと案内してくれる。
2012年9月19日 Astorga スペイン「フランス人の道」
市街地から出ると矢印が声をかけてくれる。ルート上の視線の先に頻繁に現れる上、鮮明な黄色がいやでも目に入り、フォローしてゆけばルートを外れることはない。手書きのカジュアル感が歩き疲れた心身をなごましてくれる。時には、いくら歩いても矢印が見当たらない。周りには誰一人人影が見当たらない。やっとのことで地元の人に巡り会えた時の喜びは、ある意味一人旅の醍醐味である。
2013年5月11日 Rabacal ポルトガル「ポルトガルの道」
ポルトガルでは標識を頼りにしなくても、集落を縫って歩けばルートを外れる事はない。そのせいかまとまった標識はなく、帆立貝をあしらった絵柄のものがちらほら目に付く。材料はアズレージョのお国なのでタイルを使ったものが目立つ。
2018年5月26日 Montlauzun フランス「ル・ピュイの道」
フランスの巡礼路にはナンバーが付けられている。「ル・ピュイの道」はG65である。標識としてはそのナンバーより絵柄の方が頼りになる。長方形に白赤白の3段に色分けされている。道路が分岐するところでは旗竿がつき進行方向に旗が靡いている。その大きさや掲示場所などやや視認し難い。しかし、フランスらしくスマートにこなしている。
でも、私はこの人達のことを何も知らない。互いに羨ましいと思い合い、ほんの一時、言葉を交わすだけだ。それでもいろんな人が、知らない場所で生きているのを見たとき、ホッとする。勇気づけられる。一人だからこそ、一人じゃないんだと感じられる。毎回、私はそれを確かめに一人旅をしているんだと思う。