記憶のかけら–道の風景
歩きの旅では周囲の風景をありのままに楽しむことができる。周囲の風景は地理的条件で変化する。しかし、時には歩きのスピードでは風景との間にズレが生ずる。その時には一時その風景から離れ自分の世界の中で歩き続ける。その時、地理とのズレが生じ道に迷うことがある。それも旅の一部である。
熊野速玉大社、熊野那智大社、そして熊野本宮大社とめぐる。那智大社と本宮大社を結ぶ古道は標高800〜1,000mの尾根道で、熊野路随一の難所と言われている。”雲を掴むような眺め”から大雲取越、小雲取越と名付けられている。周りの景色が開ける「百間ぐら」からの眺望にその命名に納得させられる。木漏れ日の山道を疲れを覚えず黙々と進む。
2012年9月13日 Burugos〜Carrion de los Condes スペイン「フランス人の道」
世界遺産都市ブルゴスを過ぎるとメセタと名付けられた広大な乾燥高原に入る。ガイドブックには「カスティージャの質素な大地が始まる」とある。微高地に登り振り返るとまさに質素である。しかし、360度の地平線と大きな青空は値千金である。
2013年5月16日 Sao Joao da Madeira〜Porto ポルトガル「ポルトガルの道」
イベリア半島にはローマ帝国とイスラムの痕跡が色濃く残されている。ポルトガル第二の都市ポルトに入る手前の標高240mへの登り道はcalzada romanaローマの歩道である。30キロの道のりを歩き、疲労の溜まった頭にローマ軍の進軍の足音が響いてくる。
2018年6月1日 Tollet〜Eauze フランス「ル・ピュイの道」
田舎を歩いているとフランスは農業国である事を実感する。食料自給率の低い日本の実態を考えると羨ましい限りである。道の左右に展開する広大な畑を眺めているうちに疲れが遠のいてゆく。時には巡礼路は畑の中へと繋がってゆく。葡萄畑の中を歩いていると、今フランスいると強く感じる。
旅をしながら、あれこれと、考える時がありますね。脇に人がいたらきっと話したくなること、それを振り返って、私の一人旅の決算として書いています。
「旅する知」 船曳建夫/海竜社