出会った橋ール・ピュイの道-28

右前方にエッフェル塔を見ながら進む。シャイヨー宮を通過し、パレ・ド・トーキョウ脇の歩道橋を渡って左岸の7区へと向かう。前方の木立越しにケ・ブランリー・ジャック・シラク美術館が見え隠れする。アラブ世界研究所そして売却が検討されている汐留の電通本社ビルのジャン・ヌーヴェルの設計である。

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非ヨーロッパ地域の35万点のコレクションを擁する。次回はないと思うが今回は時間の関係で残念ながら建物外観の鑑賞だけとする。ガラスを多用したヨーロッパ的なモダンデザインである。しかし、壁の色は収蔵作品が造られた場所の土の色から採り、建物を土と見立てて森と一体化させ、その存在感を消すことを目指したとの事である。敷地内の遊歩路を進むと足元を鴨が横切る。

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裏に抜けると図書館棟のがあり、その開口部にはいかにも美術館らしいデザインが施されている。

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エッフェル塔を横目に次の予定地へと向かう。17区のギマールのアール・ヌヴォー建築の他に、こちらにもラヴィロット設計のアール・ヌヴォーが見られると知り、やってきた。まずはラップ通り29番地の集合住宅である。入り口の過剰と思われる装飾には度肝を抜かれる。

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視線を上に向けるとファサード全面にこれでもかといった装飾が施されている。後期のものでギマールの作品とやや趣が異なる。

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横の小道に入ると正面には隠し絵が現れる。緻密に描かれており彩色されていれば本物と見間違いそうである。その左の建物はラップ小路3番地の集合住宅である。

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後日「アール・ヌヴォー建築の装飾的過剰な側面は、次の時代のアール・デコ建築によって打ち消され、ついにアール・ヌヴォー建築は終焉を迎える」と言う解説文に出会い、前回のアール・ヌヴォーの短命の疑問が解けた。

今回はノートルダム大聖堂エッフェル塔ルーブル美術館といったメジャーな観光対象には食指が動かなかった。

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再度右岸へとアルマ橋を渡り返す。モンテーニュ大通りのプラザ・アテネホテルの真っ赤なシェードが目に焼き付いた。

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写真はこれで採り納めとザックに収め、黙々とシャンゼリゼ大通りを宿に向かって歩く。この写真が今回の旅の最後の写真、そして多分私の最後の海外旅行の最後の写真となるであろう。

出発時はスト騒動で多難であったが、32日間の巡礼旅を含む42日間のフランス一人旅を無事終えることが出来た。

 

観光地とは必ずしも限らない。人々の生活の場をじっくりとたどっていくこと。それが本来の「旅」であるように思うんだ。

その道のりは平坦ではない。異なる文化、異なる顔立ちの人々の中を歩く、不思議な高揚感。さまざまな発見や驚き。自分ただひとりが外国人だという心細さや不安。言葉の壁、毎日のようにおこるトラブル。

一筋縄ではいかない。だからこそ、人は旅の手応えや生き甲斐を感じ、のめり込んでいく。前に進んでいく。

そんな旅の本質を、ツアーで味わうことはなかなか難しい。

  「大人の青春旅行」  下川裕治・室橋裕和/講談社現代新書