出会った橋ール・ピュイの道-27
さらに歩を進めエクトル・ギマール一派が設計したアールヌーヴォーの建築が集中しているバッシー地区に入る。アール・ヌーヴォーは19世紀末から20世紀初頭にかけての短期間ヨーロッパで開花した美術運動である。花や植物をモチーフとして曲線を多用している。道路脇の建物のエントランス、バルコニー、窓などを見ているだけで気持ちが昂揚してくる。個人住宅のため内部が見られないのが残念であるが、ファサードを眺めているだけでも想像が膨らんでくる。
そして、ギマールの代表作の「カステル・べランジュ」の前に立った。
見所はファサード全体に散りばめられていたが、中でも非対称のエントランスの扉のデザインにはしばらくの間息を止めて見惚れていた。
さらに、薄緑色のバルコニーの仮面や壁面の単なる装飾の竜の落とし子には思わず笑ってしまった。
歴史的建造物に指定されているギマール自邸も訪れたが、残念ながら補修工事中で表にシートがかけられていた。
どこからこのようなデザインが発想されたのか。鉄やガラスの新素材とも無関係ではないのであろう。しかし、この素晴らしいデザイン運動が短期間に終わったなぜだろう。
先に進むと偶然「バルザックの家」に出会った。41歳から7年間過ごした家とのことである。作品を読んだことはないので特段の思い入れはないが、バルザックにちなむが展示品の中で、「人間喜劇」の挿絵の版画スタンプは当時の風俗を感じさせられ興味深かった。
アミアンの駅前で出会った「コンクリートの父」オーギュスト・ペレの事務所と住居の入っていた建物にも出会った。「鉄筋コンクリートを初めて建築的表現の手段として使用した建築」として紹介されたペレの代表作「フランクリン通りのアパート」は居並ぶ住宅群の中で異彩を放っていた。
一見してコンクリートには見えない。花びらをモチーフとしたタイル張の壁面からはコンクリートの建物とは思えない優雅な佇まいであった。
続く
ふと蘇る映像がある。目をつむるだけで、心震える思い出がある。それが「旅の記憶」である。
「0メートルの旅」 岡田悠/ダイヤモンド社