ミュージアムを愉しむ

 年も押し詰まった先月27日の日暮どき、渋谷の松濤美術館に出かけた。企画は"パリ世紀末ベル・エポックに咲いた華サラ・ベルナールの世界展"。サラ・ベルナールには彼女がその才能をいち早く見出したミュシャやラリックの展示会で出会った事がある。今回の展示は女優を中心とした多彩な才能と生涯を当時の貴重な写真や肖像画、舞台衣装や装飾品のほか、ミュシャやラリックの作品によりサラの女優を中心とした多彩な才能を通覧するもので非常に興味深いものであった。当日実施される館内建築ツアー参加が主目的であっただけに嬉しい出会いであった。

展示を鑑賞した後学芸員による館内のツアーに加わった。先ずは表に出てファサードに向き合う。石垣フェチの私にはたまらないお出迎えである。石材は紅雲石と言う少し赤味がかった韓国産の花崗岩で、部分的に表面が平滑でなく心地よいアクセントとなっている。

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再度エントランスに入り視線を上に向けるとオニキス(縞模様の瑪瑙)仕上げの天井が奥へと誘う。思わず魅入ってしまう。迂闊にも到着時には全く気づかなかった。オニキスは邪気や悪気を祓う魔除けの石との事で来年はいい事があるかもしれない?

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展示室はお定まりの撮影不可。通路天井の光と影の放射状の束が微妙に左右に移動している。何気ない演出が洒落ている。

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展示室は2階と地階であるが、それを結ぶ階段は一番の見所であった。空間を照らす照明を白色の壁面に影として表現する演出は見事。何度も昇り降りし時には立ち止まりながら愉しむ。

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真ん中には大きな吹き抜けがあり、噴水と照明で演出されている。昼間には楕円形に切り取られた蒼い空を流れ行く白い雲のショーが楽しめるそうだ。直島の地中美術館で出会ったジェームス・タレルの「オープンスカイ」を思い出す。改めて昼に再訪しようと思う。

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慌ただしい年末のひと時を愉しむことができた。区立美術館でありおまけにシニアという事で250円と、コストパフォーマンス抜群であった。

建物の設計者はドイツで哲学を学んだ孤高の建築家白井晟一さんである。因みに、区立でありながら建設費は区立の施設の標準単価のほぼ倍だったそうだ。個人的にはそのクオリティありと感じた。しかし、以前港区の児童公園で感じたのと同じく、裕福な区と我区との格差を痛感した次第である。

 

約15分歩き渋谷駅に戻る。街は仕事納めの務め人やインバウンド客で賑わっていた。大掛かりな再開発で大きく様変わりしている渋谷の街を改めて歩き回ってみよう。