二つのギャラリー

7月6日、1ヶ月ぶりに六本木に出かけた。「FUJIFILM SQUARE」で開催中の企画写真展が目的である。日本では現在23件の世界遺産が登録されている。そのうちの文化遺産19件を、日本の美と文化をテーマに取り続けてきた写真家の作品で紹介する展示である。コロナの為に見逃すわけにはゆかない。

その多くにはすでに現地を訪れているし映像等で出会っている。写真家(あるいは展示企画者)は見どころ満載の文化遺産の何を対象として選ぶか。それをどのような時空間でどのように切り取るか。それが私の最大関心事であった。

私の関心を引いた作品のいくつかを紹介する。さて、これはどこでしょう。

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法隆寺といえば、本堂、五重塔、中門がまず思い浮かぶが、ここでは立ち並ぶ柱の列が選ばれている。柱の膨らみは日本史で聞いた、そうですエンタシスだ。でも中門ではなく回廊の一部である。

では、。これは

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左は土門拳さんの薬師寺薬師寺ならば東塔かと思うが、ではなく東院堂の観音菩薩立像である。顔の光と影から神々しさが伝わってくる。

右は夜の唐招提寺。金堂ではあるが、建物ではなく照明により浮き上がる内部の仏像。一部撮影禁止のため斜めから撮ったため寸詰まりで不鮮明な画像となった。

紀伊山地霊場参詣道いわゆる熊野古道である。ここでも聖地である熊野三山ではなく参詣道の途上で出会う紀伊山地を選んでいる。

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私も何度か参詣道を歩いたが、まさにこれぞ熊野古道である。

次はお分かりのように厳島神社だ。

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海の中に屹立する朱塗の大鳥居ではなく、海上に浮遊する回廊をクローズアップしている。

そして、アウシュビッツと共に異例の選択であった原爆ドームである。

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負の歴史遺産を青色の夜空にそうとは感じさせない前向きの感じを抱かせる。

後の二つは、生まれ故郷の広島ということで選んでしまいました。

大判で色彩鮮明の写真の前立った時の素直な感想は、現地で目の前にした時以上の感動を覚えたという事である。

その後、近傍の「TOTOギャラリー・間」に向かった。コロナの為延期となっていた企画展”Ensambie Studio Archtecture of The Earth"がやっと開始された。

スペインの二人の建築家が主宰するスタジオの作品展である。

解説に「地形を読み取り、再び活用し、その硬い表面を補強し、あるいは型枠として利用し、場所の持つ自然の力を利用し、相乗効果を生み出しながら、構築物を作っていく」とある。

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作品の一つ、米国モンタナ州の作品「ランドスケープの構造体 インバーティッド・ポータル(裏返された門)」である。

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 土地を掘り起こしそこを型枠とし、モルタルを流し込み成形した二つの巨大な塊をクレーンで背中合わせに立ち上げ門とした。まさに地球で作った構造物である。馴染みとなっている館長から特別に解説をしていただいた。スペインの聖地サンティヤゴ・デ・コンポステラの公園内にも作品があるとのことである。サンチャゴには四度も訪れたがその作品の所在を知らず現地を訪れなかった。再度のサンチャゴ訪問は恐らくないであろう。今更ながら心残りである。

関心のある方は9月12日まで開催中である。ただし、予約が必要。

帰路六本木ミッドタウンの前を通った。私のミッドタウンの一枚である。

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「写真作品の評価は、一枚だけでは成立しない」という話を、どこかで読んだ事があるんですよ。いくつも見る事ではじめて、そのフォトグラファーがどういう視点をもち、どう切り取るかが見えてくるという事。(髙橋)

 「現代アートを楽しむー人生を豊かに変える5つの扉」 原田マハ・髙橋瑞木/祥伝社