出会った橋ー熊野古道/小辺路・伊勢路

5月の熊野古道歩きの不本意な中断が尾を引いた。

熊野古道には他にも参詣道がある。修験者が歩く吉野山から本宮大社に至る”大峯奥駈道”は惹かれるものがあるがちょっと厳しい。しかし、高野山からの”小辺路”も楽しめそうだといつもの如くその気になる。5月は若葉であったが、今度は紅葉だと11月に決めた。

11月6日、夜行バスで大阪難波へと向かい、南海電車に乗り継ぎ大河ドラマ真田幸村で一躍全国区となった九度山で下車する。

高野山空海に会いたいと母親は九度山に向い慈尊院に滞在した。しかし、高野山は女人禁制のため、空海高野山から九度山へと24kmの町石道を足繁く通った。私も先ずは小辺路のスタート地高野山へと歩を進める。道の脇に一町(109m)毎に石柱が立ち並び、ペース配分の目安とな流と共に無言の励ましとなる。しかし、いつもの如く歩き初めは肉体的に辛いものがある。。

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高野山は2012年の四国遍路のお礼参り以来である。晩秋の高野山は紅葉の真っ盛りで見事の一言に尽きる。

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翌早朝、奥の院での勤行に参列した。キリスト教会でのミサに通じる感動を覚える。女性の参詣者が眼下の伽藍に向かって手を合わせた女人道を経て小辺路に入る。標高700〜1,000mの山道を上り降りし大股の宿に到着する。

翌日、標高1,246mの伯母子岳山頂を目指す。誰も居ない山頂の樹木は樹氷で覆われていた。これまでのロングトレイルで唯一の頂上制覇である。紅葉で色ついた樹林の間をひとり黙々と歩き、400mまで下り築300年の農家民宿政所に入る。

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9日、三浦峠(1,080m)からバス道へと下る。日本一長い路線バス(近鉄八木駅〜JR新宮駅/167km)が通る自動車道を進み、宿のある標高200mの十津川温泉郷(標高200)に入る。温泉街の手前で十津川の支流にかかる吊り橋に出会う。デザイン以前のデザインを感じさせられる。対岸まで渡ってみたがスリル満点の渡り心地である。

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宿の露天風呂から周りを見渡すと

緑の中に鮮やかな赤色の橋が目に入った。特段のものではないが妙に赤が目に染みた。背後の山の上には明日訪れる”天空の郷”と言われる果無集落がある。

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集落には人影は無いが住処には不似合いなほど大きな鯉が出迎えてくれた。

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一軒残る民家の縁側に座りただ一人静かな時を過ごす。観光シーズンでなくて良かった。果無峠(1,114m)を越え、標高100mのバス道まで下り自動車道を本宮大社に向かう。観光センターで熊野古道とサンチャゴ巡礼路を歩いたと言う証明書の発行を依頼した後、そのままバスで新宮に出てJRで熊野市に向かった。

なぜ熊野にやって来たのか。5月に出会った人達と泊まり込みでじっくり話をしたかった為である

翌朝、熊野灘の日の出を拝み5月の時の逆方向に歩き始めた。賀田の船宿で朝の漁でとれたばかりの漁師料理の朝食に舌鼓を打ち、尾鷲のアルベルゲ山帰来ではご夫婦と夕食をともにし、船津では人との出会いの橋渡しをして頂いた柴田さんと夜遅くまで地酒を汲み交わした。

11月15日、埋立でできた紀伊長島のラビリンス(私が命名)では、古い昇降型の江の浦橋と新しいループ橋の江の浦大橋が面白い対比を見せていた。

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 翌日、嘗て伊勢と紀伊の国境だった荷坂峠(241m)を越えた梅ヶ谷で歩きを終え、電車で伊勢市へ向かった。峠道は尾根道歩きの為珍しく石畳道が全く無かった。

歩きでくたびれた胃に優しいという伊勢うどんを食べた後、”伊勢の台所”と 言われる古い家並みの「河崎」を歩き回り、古い蔵を改造した「蔵deラーメン」で腹ごしらえをし、新宿行きの夜行バスに乗り込んだ。

今回は10日間、歩いた距離は170kmと比較的のんびりな旅であった。

 

中田 日本には剣道や柔道、茶道など「道」とつくものが多いですが 、「道」というだけあって、明確なゴールや完成を目指すものではないんですね。何かを完成させるのではなく、より良いものを目指し続ける、つくり続けるという精神性や、突き進み続ける力というものが日本人にはあるんじゃないかと感じます。

 *中田 中田英寿、元サッカー選手、実業家

    「佐藤可士和の対話ノート」佐藤可士和/誠文堂新光社