記憶は蘇る

 ロマネスクの時代にスペインという国家は存在しない。十一,十二世紀のイベリア半島は、キリスト教世界とイスラム世界に引き裂かれていた。    中略

スペインという統一国家の誕生する以前のイベリア半島の複雑な歴史。その錯綜こそが半島に残る多彩な中世キリスト教芸術の源泉となる。      「スペイン・ロマネスクへの旅 」  池田健二

最近ロマネスクにはまっており、次々に旅の記憶が蘇ってくる。

ヨーロッパの教会と言えば軽快かつ華麗なゴシック様式が思い浮かぶが、重厚かつ多様性に富むロマネスク様式も心に染みる良さがある。
レコンキスタ時代の一時期にアストウリア王国の首都であったスペインのオビエド。9世紀に夏の蒸し暑さを避け、風通しの良い郊外のナランコ山に 王の離宮が建てられた。その後近くの礼拝所を内部に移し、その跡が現在サンタ・マリア・デル・ナランコ教会と呼ばれている。純粋の教会建築ではないが、私の一押しのスペイン・ロマネスクである。市街地中心から路線バスで出かける。最寄バス停から斜面を登ると外構えがシンプルな方形の教会が現れる。上階に上がると嘗ての王の居室あった細長い身廊空間に出る。さらに妻側祭壇の設けられたバルコニーに出ると眼下に古都の市街が見渡せる。王にでもなった様な気分で暫し瞑想する。見所のインテリアの紹介は長くなるのでインターネットにお任せする。元の礼拝所もサン・ミゲル教会として近くに残っており、小ぶりで味わいのある佇まいである。
帰路のバス運転手に宿舎最寄のバス停を知らせてくれと頼んだら、終点近くで乗客が私一人であったせいか、ルートを少しだけ外して宿舎近くまで行ってくれた。"Muchas gracias"
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スペイン/オビエド 20140609