フランスの最も美しい村ーLarressingle

 23日目の5月31日、猫の村La Romieuを出発。途中Condomコンドンと言う比較的大きな街に出会う。出迎えたのは四人の騎士でその中の一人はダルタニャン。そうです、アレクサンドル・デュマ創作の"三銃士"の主人公です。ダルタニャンという実在の人物がいてその人物の出生地らしいのです。

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Condomはコンドームとも表記されます。又々そうです。この町の医師コンドームが発明したとの説が一般的であるとされている。さらに、コニャックと共に知られているブランデーのアルマニャックの産地でもある。また又々、今夜はアルマニャックのカーブを持つ宿を予約済みだ。

話が逸れたが、この街から巡礼路を逸れて美しい村Larressingleラレッサングルに向かう。途中でサインに従ってさらに脇道に逸れる。フランスのサインはデザインが洗練されていて日本の様な押し付けがましさが感じられない。

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坂道を登って行くと廃墟らしきものが現れた。ラレッサングルである。ここも所謂要塞都市であるが、今まで出会ったものに比べて規模が小さく、周りには民家はなくブドウ畑である。要塞というより砦である。

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地図が無かったので後日インターネットで調べるとまさに砦である。13Cに建造されその後荒れていたものをナポレオンの末裔とアメリカ人富豪によって中世の姿に修復されたそうだ。現在200人強の人が住んでいる。更に進むと城門が現れた。思いの外立派で、周りには浅いながらも堀が巡らされている。

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中に入って行くと例によって城壁にあたる部分は民家になっており、それに沿って通路が巡らされている。途中で近所からやって来たらしい家族に出会ったが、巡礼路から外れているせいか他には二人連れの巡礼者一組に出会っただけであった。広場前には領主の邸らしき建物とと教会が残されていたが、住民も見当たらない。。昔の姿のまま静まり返った中で一人佇んでいると中世の時代に迷い込んだ錯覚に陥る。

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吉村氏によると「ナポレオンの末裔によってよみがえったブドウ畑と城壁に囲まれた要塞の村」とさらっと書いている。特段見るもののない小さな集落であるが、それはそれなりにしみじみと嘗ての営みを感じられた。

今回最も楽しみにしている宿la Ferme de Tolletヘと細い道を下っていった。

 

フランスで最も美しい村ーAuvillar

 ガロンヌ運河の遡行を楽しんで暫く進むと小さな集落Espalaisに出会う。トリコロールの国旗と背後のサン・ピエール教会が今フランスにいるという事を実感させる。

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雨で色づいたガロンヌ川を横切ると今日の宿泊地フランスで最も美しい村のAuvillarオーヴィラールに到着。

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例によって高台の住居兼用の城壁に囲まれ住人200人強のこじんまりした要塞都市である。

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広場傍のOffice de tourisme観光案内所に行くが、communal公営巡礼宿のチェックインは13時半との事。今日20日目の5月28日の歩きは約20kmと短距離の為未だ12時である。目の前の円形市場で持参のバゲットの昼食を摂りながら待つこととする。月曜日という事もあり市場は開いておらず人っ子ひとり見当たらない。

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宿の前に行くと多くの荷物を積んだバンが停まっている。身軽で歩きたい巡礼者の荷物を宿から宿へ運んでくれる運搬車である。これを利用すれば楽だとは思うが律儀な日本人の私は10kgの荷物を担いで歩く。

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宿での一仕事の後村のブラつきに出かける。鐘楼の傍に二つの小さな尖塔を持つ珍しい形態の教会に出会う。

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堂内は質素な佇まい。

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上階に上がると目の前にお気に入りの甍の波が展開する。

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円形市場と共に村のシンボルとなっている時計塔は村の正門らしい。壁面の赤白のボーダー柄は村内のあちこちで見かける。この辺りの建築様式だったのだろうか。

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明朝にはここをくぐって次の宿泊地ヘ向かう。

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原発大国のフランスでは冷却水と用地の確保の関係から原発は内陸部の大きな河川の傍に立地する。手前の花の赤い色に何かを感じさせられる。

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広場に戻り円形市場の屋根を見上げると小さな人形。

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近くには母と子が長椅子で微睡んでいるらしきストリートファニチャー。後ろに銘板があり、辞書を牽いてみると"青い甘草の芸術"となるが。しかし、誰にも出会わず静かに過ごした小さな村の1時間とこのアートが繋がっているように感じ、かってに"微睡みの村"と名付けた。

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夜中に尿意をもようしトイレに向かった。そして目の前に見たものは枕元に蠢く現代の怪物であった。

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吉村氏は「巡礼の休憩地として栄えた村、円形市場で出会う村人の暮らし」と述べているが、嘗ての繁栄の片鱗は見かけたが、残念ながら現在の村人の生活感は感じらlれなかった。

 

 

 

 

 

フランスで美しい 村ーLauzerte

19日目、5月26日の宿泊地は標高200m弱の山上の要塞都市Lauzerteロゼルト。12Cに開かれた村で人口は約1,500人。吉村氏によると「活況を呈した巡礼街道沿いの村はフォアグラや果物の名産地」とある。 

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坂道をの登りきりまずは中心部の広場に入る。

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広場を眺め回すとその一隅の床がめくれ上がっている。

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近付いてよく見ると新しく作り込まれたストイートファニチャーである。この村には何かが有りそうな予感がする。例によって宿に荷を置き集落内をぶらつく。まず関心を引かれたのは窓枠と窓扉の塗装である。各住戸毎に異なった色を使っているが、バラバラ感はなく見ていて心地よい。

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住戸の入口傍の花を咲かせた樹木も単調なファサードに彩りを添えている。

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一部地区ではイタリアルネサンス調のデザインが取り入れられ本格的な修復中であった。予期せぬものに出会った感があったが、どのような経緯でその家並みが出来たのかは確認できなかった。

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高台の周囲は農地や緑地に囲まれ、路地の合間に垣間見える。

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そして、あちこちの民家には職人が住み込み作品の制作に余念がない。

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一部にギャラリーを設け作品を展示している。

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更には店の看板や壁面装飾等、村じゅうにその活動が展開されている。

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この村では景観のみでなく村人の生活にも触れることができた。

翌日、山を下り振り返ると村の全景が見て取れた。私はグルメにあまり関心を示さないが、この村は私の期待に応えてくれた。

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日本橋は燃えているか

今、パリは燃料費増税反対のデモで燃えている。数ヶ月前、フランスを訪れた時空港建設反対で、SNCF(フランス国鉄),Air Franceのストに出くわしあたふたしたのを思い出す。3ヶ月に渡る計画的かつ散発的ストにも拘らず市民の冷静な対応には感心させられた。生半可な理解かもしれないが、両者の対応には違いがあるもののフランス革命以来の何かが脈々と流れているものを感じた。

先日、神楽坂訪問に触発され日本橋"三重テラス"の「江戸小紋と伊勢型紙〜日本橋と三重を結ぶ職人の美意識」と題するトークショウに出かけた。日本橋を渡り、進んで行くとなんと居並ぶ新旧の建物のファサードが紅く染まっている。日本橋は燃えているのか!

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江戸小紋の"光の刺繍"「真紅の光街〜日本橋」と銘打ったライトアップであった。

トークは江戸小紋のデザイン監修をした落合(新宿)の廣瀬染工場四代目染師廣瀬雄一さんとファッションジャーナリスト生駒芳子さんの対話に始まり、途中からその型紙を彫り上げた三代目伊勢型紙彫刻職人今坂千秋さん、伊勢杜氏の伝統を引き継ぐ蔵元清水清三郎商店社長が加わり話題が広がっていった。伝統を受け継ぐ職人の話は非常に興味深いものであった。ご多聞にもれず和装文化の縮小による売り上げの低迷とそれに伴う工房及び職人の減少が大きな問題であるが、新商品の開発や海外への展開で問題を乗り越える努力が続けられ、最近では僅かではあるが新しい若い人材が確保されているとの事。

中でも興味を引いたのは伊勢型紙であった。廣瀬染工場では古くから伝わる型紙を3,000〜4,000保有しているが、新しい血を入れるべくフランスの若手のデザインも採用している。基本はあるパターンの展開であり、AIを導入すれば簡単かつ精度の高いデザインが出来上がると言われるが、手仕事によるある種の誤差による"揺らぎ"が美意識に触発し、これこそが職人技の真髄でありAI技術と言えども実現できないものであると声を強めて話された。納得!

伝統的デザインでもモダンを感じさせる。

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新商品の開発は「comment(コモン)」ブランドのストールからTシャツへと展開している。

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更に、お酒のボトルにも

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トーク終了後表に出てライトアップをじっくりと眺める。日本橋三井タワービルの正面入口上部には今回染め上げられた江戸小紋

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隣の三井住友信託銀行の古いビルは控えめに

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周りのビルにも

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そして圧巻はお馴染み三越日本橋本店

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光を捉える

 東京都写真美術館の写真展「建築×写真 ここのみにある光」に出かけた。旅の中で私は多くの建築物を写真に収めてきたが、著名写真家はどのように捉えてきたかを見てみたかった。

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展示物自身は流石に目を瞠るものであったが、正直なところ写真というより建築物そのものに関心が移ってしまった。写真として鑑賞する為改めて出かけることとした。

ところで、先日の神楽坂訪問の帰路六本木ミッドタウンのFUJIFILM SQUREに立ち寄った。目的は「アメリカ近代写真の至宝ギルバートコレクション展」のギャラリートークである。絵画については私も何となく自分なりの見方を持っているが、写真についてはよく分からないところがあった。

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米国のギルバート夫妻のコレクションのオリジナルプリントを京セラが購入し、京都国立近代美術館に寄贈したものの展示である。同美術館の主任研究員の説明を私なりに要約すると

「難しいことは別として、オリジナルプリントをじっくり鑑賞して欲しい。そして印刷物では見えなかったところを見て欲しい。」

となったが、説明者の助言に従い写真に触れない範囲にまで顔を近ずけて鑑賞出来た。対象の質感まで伝わり、モノクロであったがカラー以上に深いものを感じた。私の関心を引いた作品は「グラフィカルで個性的な明暗の階調持つ特有の写真を創り上げた」とされるブレッド・ウエストンのスペインとオランダので撮影した二作品であった。

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オリジナルでないの残念である。私も同じ様な構図で撮影したのを思いだし帰宅後アルバムをめくってみた。スペインの民家とフランスの運河の写真を見つけた。違いは歴然でウエストンの民家には材質感までハッキリと写しこまれており、絵画に見られる盛り上がり感まで見て取れたが

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念の為モノクロに変換してみたが

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運河の方は画質が悪く申し訳ないが、氏の写真は実と虚が渾然一体となって見ているうちに吸い込まれて行く感覚であったが、私のものは単に水面の反射を面白く感じたに止まっている。

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私の技量の向上は望むべくもないが、今後は出来るだけオリジナルプリントに接して写真の面白さを楽しみたいと思った次第である。

 

 

 

 

 

 

神楽坂再訪

新宿区の妙正寺川神田川沿いには、綺麗な水を求めて江戸時代から染めの職人の工房が集まり、現在も江戸小紋等の伝統を継承し、地域産業「染めの王国・新宿」として息づいている。

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新宿区染色協議会は毎年「紺屋めぐり」と銘打ち、工房の見学、体験、展示のイベントを模様している。残念ながら参加できなかったが、締めとして神楽坂毘沙門天(善国寺)の感謝祭に出かけた。ごくささやかなものであったが、堂内の作品展示には著名な作家のものではないものの暫く"洋の美"に接してきた自分には何か新鮮なものを感じた。説明によると、その主な顧客が公家と武家である事から京と江戸では違いがあったが、最近はその相違は顕著ではないとの事。しかし、素人目の感想であるが武士のイキを感じさせるモノに目を奪われた。

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そして、

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建物は新しいものであるが冬の日差しを受けた門の丸瓦は趣がある。

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神社には獅子や犬に似た想像上の動物「狛犬」が付き物であるが、寺である此処にも鎮座している。それも狛犬ならぬ"石虎"である。毘沙門天信仰から来ているそうだ。

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視線を挙げると 植物の影を写し込んだガラススクリーンが違和感なく収まっている。

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三年前にも「公園の象」を求めて神楽坂にやってきた。その時同様細い路地をうろつく。

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そして、かの国立競技場の隈研吾氏設計の赤城神社に行き着く。ここの狛犬は江戸時代に「加賀白山犬」として持て囃されたデザインを踏襲している。

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現在「三百名山」挑戦中の田中陽希の「二百名山」の再放送を見ていると、埼玉県秩父武甲山頂の御岳神社が紹介されたが狛犬はなんと"狼"である。

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野生の動物から作物を守る為狼を守護として祀ったとの事。アバラ骨剥き出しの姿にすざましさを感じさせる。神社仏閣の見所として"狛犬"が加わった。

 

 

 

 

フランスで最も美しい村ーSaint-Cirq-Lapopie

「ル・ピュイの道」のFigeacとCahorsの間にはメインルートの他にCele川の畔を歩くオルターナティブルートがある。時には水辺を歩きたいとの思いと共に「フランスの最も美しい村」で人気の高いサン・シル・ラポピーを覗いてみたいと言う野次馬根性で後者の道を進んだ。因みにこの村は人口二百人強の要塞の村で「フランス人が選ぶ好きな村」の1位なった事もあり、近年では日本発の海外ツアーの訪問地にもなっている。吉村氏は「多くのアーティストに愛された中世の面影を残す要塞の村」と紹介している。

 巡礼15日目の5月23日,巡礼路を外れCele川が合流するLot川を渡る。川沿いを進む寄り道である。岩壁を抉って造られた道の壁面には何と彫刻作品が続く。

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約1時間後に険しい山道を登ると城塞の足元にたどり着いた。村の入り口の反対側からの訪問である。近くの観光案内所で地図を入手し、ザックを預けた後持参のバゲットに生ハムとチーズを挟みコーラを飲みながらささやかなランチ。そして、デザートのバナナ。

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 要塞跡に上ると小さな村の全貌が見渡せる。ここでも見どころは甍の波である。茶色の傾斜のきつい屋根が展開する。雨が多いところなのだろうか。

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足下にはハーフティンバーの可愛らしい民家が佇んでいる。

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狭いながらもメイン路を下って行く。現在の姿になったのは13〜14C頃だそうだが、家並みには当時の面影が感じ取れる。

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嬉しい事に足元には珍しく水道組合のマンホールが出迎えてくれた。

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そして、嘗ての要塞の門が現れた。観光客はここから村にアプローチする。振り返るとお約束のゴシック様式のサンシル教会が屹立する。途中で立ち寄ったが入口に立ちはだかる恰幅のいいご婦人が有料であると宣言をした。普通の教会と思われるが……パスした。

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巡礼路への帰り道で見かけたオブジェは自然の中に静かに佇んでいた。

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バカンス前という事もあり観光客は疎らで、おまけに東洋の団体客とのバッティングもなく、「美しい村」を十分に享受する事ができ、往復8kmの寄り道の苦労も忘れさせてくれた。