南蛮夕景紀行

 先日永六輔の追悼番組で「日本夕焼け紀行」をやっていた。永さん自身そして視聴者の方々の夕景に纏わる思いと日本各地の見事な夕景を2時間にわたって綴った番組であった。私は、気軽に現地に赴き日常の生活風景をうんちく深く語りかけてくれる永さんのラジオ番組や著作を愛聴・愛読してきた。ある時地方の書店で偶然出会い寸時の会話を楽しんだ。その時サインを頂いた著書が懐かしくも手元にある。

さて、私の夕景の思いを振り返ってみた。印象が鮮明なのはやはりここ数年の南蛮放浪のそれであろう。緯度が高くサマータイムを導入している為日暮れが遅く日没は9時過ぎ。疲れと早朝出発の為9時頃には既にシュラフの中が多く夕景をじっくりと楽しむ機会は少なかった。

「フランス人の道」レオン の40km手前にある集落El Burgo Raneroの夕景は今でもその時の光景が目に浮かぶ。アルベルゲのホスピタレイロに「どこか面白いところない」と聞いた所「街のはずれのラグナの夕陽が素晴らしい」とのこと。日没には時間があったので夕食を摂りながら待つことにし、近くのメルカードで食料を手に入れ現地に赴いた。余り大きくはない湿地の前にベンチが一つ。猫一匹以外誰一人見当たらない。猫と一緒に食事しながら日没を待つ。雲が立ち込めているが、その陰に太陽は見える。9時近くになり遠くの丘の上が明けに染まる。このまま日が沈むのかなと、若干期待外れの感。

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しかし時が経つに連れ赤みを増した夕焼けが大きく広がり、手前の水面にも夕日が映り込み真紅の空気に包み込まれた。自分一人の為にドラマが演じられている気分に浸った。

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 やがて、一帯に暗闇が訪れ短いドラマは終了した。

 

日本では夕景といえば海や山並みに沈む太陽が定番であるが、「北の道」以外の巡礼路は内陸のなだらかな高地を進むので、その様な光景になかなか出会わない。「ポルトガルの道」巡礼後のバス旅行でポルトガルの大西洋に面した保養地ナザレで海に沈む夕日に出会い妙に懐かしさを感じた。

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ポルトガルはエボラの東に位置するモンサラーシュはスペインとの国境の要塞都市。その性格からアレンテージョ地方の平野が一望できる。宿の屋上で涼を取りながら眺望を楽しんだ。目の前の白く小さな鐘楼と、時間の経過とともに微妙に変化するパステル調の空との取り合わせがこの地方には珍しく暗くなるまで見入っていた。

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 「北の道」から外れた"レコンキスタ"発端の地オビエドから再び巡礼路に戻ったMuros de Naronと言う集落の宿の前庭から眺めた夕景はまるでお伽話の影絵を見ている様であった。

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 Castilblanco de los Arroyosは出発地セビリアを出て二番目の宿泊地。アンダルシア地方独特の"白い村"が散見される。日が傾くに従って鮮やかな白壁が景観の中に溶け込んでゆく。

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 そしてその痕跡を一切残さず赤と黒の夕景と変わり、やがて黒一色の闇となる。

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