私の銀ぶら

5月10日の"色いろいろ"で触れた評論家の 荻上チキさんのエッセイ集「みらいめがね それでは息がつまるので」(暮らしの日本社)を読んだ。一体何者なのかと思っていたところ、朝日新聞社主催の「舟を編む」作者三浦しをんさんとの対談に参加できることになった。ご両人がお付き合いしている"鬱"に纏わる話が中心で、興味深く聞かせていただいた。その模様は近日新聞紙上で紹介されるそうだ。

開始は夕方であったが少し早めに出掛け銀座に向かった。世界の銀座は日々刻々その様相を変え、銀座での買い物客やインバウンドの外国人でごった返している。その一方でかつての銀座の風情を求めて銀座に出かける動きも見られる。私はへそ曲りの性格と財布との相談で後者に属し、山田五郎さんの"ぶらぶら美術、博物館"で紹介された「奥野ビル」に出かけた。以前から行ってみたいと思い続けていたが、訪れるからには館内に入りたいとの思いがあり、その抵抗感から行きそびれていた。しかし、ぶらぶらで五郎さんが館内闖入のバリアーを取り除いてくれた。

銀座中央通りの一本裏に建つタイル貼りの7回建てのビルである。2年後に右の隣地を取得してほぼ左右対称のビルとなった。

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昭和7年に賃貸住宅として建てられ、西条八十、佐藤千代子、吉田謙吉等が居住し、都心の高級賃貸マンションのパイオニアであろう。約3.5坪でバス、トイレは共用であった。エントランスに入ると後付けのメイルボックスがあり、今では銀座らしく入居者にはギャラリーが多く見られ、居住者はいないそうだ。

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注目のエレベータで上階へ向かうが、ドアの開閉は手動のレトロエレベータで操作にはドキドキものである。

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廊下に出ると狭く雑然としており、床は取り敢えず躓かない程度に手を入れている。しかし、設備関係は充分にメインテナンスされており、入居者は全く問題を感じてないと言っていた。

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空いているドアを覗くと声をかけて招き入れてくれる。美術に関して特段の知識を持たず、見ていて何となく共感を覚える作品に出会いたくて美術館やギャラリーに出向く私のようなものにとっては、一歩踏み込むには儚い勇気がいる。でもチョットした事で会話が始められる。作品に関係なくても良い。

「最近は建物が評判になり、建物目的の人も覗いてくれる。」「下を見ていると写真を撮っている人が多いが、建物には入り難いのかそのまま行ってしまう人も結構いる。」そう言えば、「中を歩いている人にも居心地の悪そうな人も見かけた。」

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中が見えてもこんなギャラリーはチョット入り難い。

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そして、ドアの閉まったこんなギャラリーは大いに躊躇する。

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アンティークショップや新商品開発のアンテナショップもあり、無目的で訪れても楽しめそうである。

場所柄、オフィスやホテル等に建て替えられてもおかしくないが、オーナーの意向で昭和の香りを残しながら大事に使い続けられている。

外に出て建物を見上げるとたくまざる緑化にホッとさせられる。

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美術館での名画鑑賞もいいが、何という事もない小さなギャラリーを覗き、経営者や作者と気軽に話をすると言う時間の過ごし方は、海外旅行で田舎に住み込んだ芸術家と接して学んだ私なりの芸術との付き合い方である。

ヴェズレーでは、沿道のギャラリーで娘が日本に住んでいる男性とその妹の版画家とバス待ちの時間を過ごした。

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シャルトルでは偶然見かけたギャラリーで、展示準備中の在住日本人画家に出会った。

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 小さな村の彫刻家はその意気込みに、黙って側に立って見とれていた。

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