記憶のかけらー鉄道駅を楽しむ

私の旅は歩き旅が主体なので、鉄道の駅にはあまり縁がない。しかし、記憶のかけらとして残っている駅がある。

 

「フランス人の道」を歩いた後、アンダルシア地方を訪れる途上「魔法にかけられた町」と言われる断崖の上の要塞都市Cuencaクエンカに立ち寄った。”宙吊りの家”と呼ばれるスペイン抽象美術館で知られている。しかし、私の記憶はその街の南4kmの高速鉄道最寄駅フェルナンド・ソベル駅である。駅舎に入るとそこは光の館である。人影は全く無い。街へ向かうバスの待ち時間を苦にせず穏やかに時を過ごした。因みに、美術館は休みで入館できなかったが、この駅との出会いがその無念をカバーしてくれた。

2012年10月1日 誰もいない駅 スペイン/Cuenca  after「フランス人の道」

 

ポルトガルの道」はポルトガル第二の都市Portoポルトを通過する。見どころ満載の街で、ゆっくりと過ごすべく、原則一泊の巡礼旅を二泊に伸ばした。世界遺産の歴史地区、ポルトのシンボルのドン・ルイス一世橋、ポルトワインのセラーそして、”天国への階段”と称される書店レロ・エ・イルマオン。もっとゆっくり滞在したかった。なかでも、ポルトの歴史的な出来事をアズレージョで描いた20世紀初め建設のサン・ベント駅のホールでは、不十分な歴史認識ながら時の経過を忘れて過ごした。

2013年5月16日 ホールはギャラリー ポルトガル/Porto「ポルトガルの道」

 

「ル・ピュイの道」を歩き終えた後、パリ再訪は無いものとランス、アミアン、シャルトルのゴシック大聖堂、そしてロマネスクのサント・マドレーヌ・バジリカ聖堂を訪れた。いずれもパリ市内のターミナルからの鉄道旅である。それぞれ東駅、北駅、モンパルナス駅、ベルシー駅から往復する。

その中で最も光っている記憶のかけらは北駅の広場内に建つ小さな建物である。「溶ける建物」という彫刻で、地球温暖化を訴えるためパリ市が創作を依頼した。私を含めてこの彫刻が訴えていることに思いを寄せながら眺めているだろうか。

2018年6月12日 駅広もギャラリー フランス/Paris after 「ル・ピュイの道」

 

大阪は若かりし頃の職場であった。久しぶりに訪れ新しい大阪駅を利用した。線路で南北が分断されていた駅は線路上空の連絡路で結ばれている。広大な連絡路で蛇行するベンチに出会った。大阪もアートに目覚めたか。でも、人影はほとんどみられず、ポツンと佇んでいるだけのようであった。

2014年3月8日 座ってもいいかな 日本/大阪 街歩き

 

「淋しい」と「孤独」は違う。話し相手がいないから淋しくて孤独。そんな安直なものではないはずである。

淋しいとは一時の感情であり、孤独とはそれを突き抜けた、一人で生きていく覚悟である。淋しさは何も生み出さないが、孤独は自分を厳しく見つめることである。

   「孤独を抱きしめて」 下重暁子/宝島社