記憶のかけら–足元注意

歩き旅には足元が大事であるが、周りの景色に関心が向くため一般に足元の記憶は薄いように感じる。私は空から地面まで満遍なく関心を及ぼしながら歩く。しかし、長い歩きで心身共に疲れを覚え始めると、自然と視線は地面に固定される。

 

スペイン北部カンタブリア海に面した港町ラレドの街を歩いていて、一寸視線を地上に移した時、思わず前のめりになりそうになった。なんと、路面が波打っているではないか。しかし、よく見ると表面は平坦である。舗石タイルの表面に波打った溝を掘り込み、歩行者にあたかも表面が波打っていると錯覚を起こさせている。こんなところまであそびを持ち込むスペイン人を憎めない。

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2014年5月31日 足元にもアート スペイン/Laredo「北の道」

 

ヨーロッパの街中で歩道や広場でしばしばピンコロ石で舗装されているのを見かける。ポルトガルでは特に集落に入るとこの舗装面を歩かされる。ところが、多くの場合表面が十分に平滑に仕上げられていなくて、しばらくすると足首にダメージが生ずる。その時には路端の地道の部分に逃げ込む。生活している人たちはどう感じているのだろうか。でも、眺めている分にはアスファルトでは見られない心和む趣がある。

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2013年5月19日 歩きにくくても ポルトガル/Barcelos「ポルトガルの道」

 

フランス南西部では時どき夜のうちに通り雨がある。地道の土が粘土質のため道路は泥濘状態となり翌日の朝の歩きには難儀する。いちいち避けて歩くのは面倒なので、泥道の中を進む。しばらくすると、なんとなく視線が上がったように感ずる。立ち止まって靴の裏を見ると数センチの泥が堆積し、ロンドンブーツ状態となっている。子供ごころに帰ってどんどん進む。

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2018年5月31日 雨の後 フランス/Larressingle〜Montreai-du-gers「ル・ピュイの道」

 

熊野古道伊勢路は石の道である。雨の多い地方のため、道路が崩壊しないようにと石で舗装されている。雨が降れば山道は川となる。石は苔むし滑りやすくなっており難儀する。しかし、長い歴史を経て整備されてきたため、その時代を反映した整備状態で、歩きにくさを忘れてその変化を楽しむことができる。

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2016年5月17日 雨の後 三重県 「熊野古道伊勢路

 

池内 車と歩きでは、何よりも目の位置が全く違います。それに、車に乗っていて目につくものは、宣伝されるスポットだけで、その合間は全然目に入らない。その合間がいいんですよ。めっけものがあるのは合間です。

  「すごいトシヨリ散歩」 池内紀川本三郎/毎日新聞出版