記憶のかけら–日の出
巡礼中は涼しいうちに距離を稼ぎたいとか、予約のできないスペインのアルベルゲでのベッド確保の為に日の出前に宿を出ることが多い。宿の消灯時間が午後9時の場合が多い上、疲れで熟睡できるので全く苦にならない。地平線から赤く染まった広大な空に向かって昇る太陽を独り占めすることができる。
セビリアを出立し「銀の道」もほぼ1/3をこなした。Casar de Caceresの宿を出て小高い巡礼路を進む。右手に天地を二分する地平線が延々と続く。空が赤く染まり始め、やがて太陽が顔を出した。日本で日の出といえば海や山からの日の出を思い浮かべるが、スペインでは地平線からの日の出である。単純だが雄大な日の出である。
2015年6月3日7時3分 地平線の日の出 スペイン/Casar de Caceres 「銀の道」
サラマンカに向かって北に進む。地平線に並んだ樹木からの賑やかな日の出に出会った。樹平線の日の出?か。
2018年6月8日7時 樹平線の日の出 スペイン/Fuenterroble de Salvatierra「銀の道」
「ポルトガルの道」を歩いた後、ポルトガルに引き返し、南下しながらバス旅を続ける。リスボン東方のアルト・アレンテージョのモンサラーシュを訪れた。翌朝エヴォラへ向かうバスを待つ間、バス停付近を彷徨いていた時偶然日の出に出会った。お隣のスペインの日の出である。この日の出は日本では経験できない地球規模の日の出であった。モンサラーシュは国境の街であった。
2013年6月7日6時39分 国境の日の出 ポルトガル/Monsaraz after「ポルトガルの道」
ザックを通り越して背中に暖かさを感じた。振り返ると背後に真っ直ぐ延びる道路D933の横から朝日が顔を出した瞬間であった。今日は「ル・ピュイの道」に別れを告げる日であった。心揺さぶられる見送りであった。
2018年6月9日6時29分 最後の夜明け フランス/Larceveau「ル・ピュイの道」
熊野市は広大な熊野灘に面した街である。ユースホステルの管理人の勧めで浜辺に出て日の出を迎えた。釣り人ひとりと水平線の単純な構図での日の出である。顔を出した太陽は周りのスケール感からなんとなく小さく見える。
2016年11月12日6時31分 熊野灘の日の出 三重県/熊野市 熊野古道「伊勢路」
しかし、水面を離れた太陽はしだいに大きさを増し、海面を赤々と染め上げていった。海外で出会った地平線の日の出と対をなす日の出である。