記憶のかけら–雪

昨日、午後から降り出した雪を見ていて、明日は雪道を歩けると楽しみにしていた。しかし、路上の雪は車で踏み締められ、轍部分は街路灯を反射した氷道となっている。スリップしない様に雪の残っている部分を歩く。なんとか転倒なしで無事ウオーキングを終えた。

f:id:peregrino:20220107095441j:plain

歩いている間中、あのフランスでの雪中行軍が蘇ってきた。

 

前日のフランス人女性の「明日は雪」を信じられなかったが、朝窓の外はうっすらと雪景色であった。7時に宿を出る。巡礼路最難所”Aubracの荒野越え”である。標高1,300mの広野は一面季節外れの雪景色。見惚れているわけにゆかない。積雪は20〜30cmではあるが、歩行コースは隠れた上、周りには人影はない。装備は夏装備であり、ガイドブックの地図はアバウトである。正直、頭に不安がよぎった。14時過ぎに、なんとか次の宿に辿り着いた。最近は珍しくない季節外れ気候を海外の山中で経験した。

f:id:peregrino:20220107103452j:plain

2018年5月14日 五月の雪中行軍 フランス/  Aubrac  「ル・ピュイの道」

荒野に入った所で冬と夏に撮影したと思われる写真を見かけたが、初夏の5月にまさかの冬並みの経験をした。

f:id:peregrino:20220107103738j:plain

 

セビリアからバスでグラナダに向かう。中国人の女性と話をしていた時、前方に山頂が白い山並みが現れた。シエラ・ネバダ山脈である。地上での暑さとアフリカを目の前にしている事、そして長旅の疲れから、うっかり白いのは石かと言って笑われた。調べると、シエラ・ネバダは「積雪のある山脈」を意味し、最高峰は富士山並みの3,480mで亜寒帯気候とのことである。翌日アルハンブラ宮殿を訪れた後、11世紀にイスラム教徒が築いた街並アルバイシンの展望台からグラナダの街を一望した。そこにはグラナダの街を見守るように白い山並みが横たわっていた。因みに、アルハンブラの水景は、遥々シェラ・ネバダの雪解けの水がもたらしているのだそうだ。

f:id:peregrino:20220107104644j:plain

2012年10月4日 歴史を見守る山脈 スペイン/グラナダ after 「フランス人の道」

 

ところで、ポルトガルでは雪には出会わなかった。しかし、私の訪れた北部のスペイン国境近くの山間部では冬季に積雪が見られるそうだ。

 

若葉の熊野古道を歩いた後、紅葉の古道も歩いてみたいと11月に高野山を起点とする「小辺路」を歩いた。赤、橙、黄色とまさに紅葉の真っ盛りで、しみじみと秋を感じる歩きとなった。四日目に二百名山伯母子峠を通りかかった。側の山小屋の扉の下方がギザギザに抉れていた。熊の仕業と言う。そういえば”熊に注意”を見かけた。私は旅は峠越えの旅であえて山頂は敢えて目指さないが、下山してきた人の「眺めが素晴らしい」に、頂上の1,246mに寄り道をした。そこでは360度の眺望はともかく、紅葉と霧氷のコンビネーションにしばし見惚れていた。

f:id:peregrino:20220107104131j:plain

2016年11月9日 紅葉×霧氷 奈良県十津川村熊野古道/小辺路

 

人間の歴史は”記憶” であり、それが何重にも積み重なって文明というものができる。電子情報はキーひとつで一瞬にしてゼロに変わる可能性がるわけで、どんなに蓄積されようとも”記憶”にならない。歴史にならないというのが僕の考えです。(池内)

  「すごいトシヨリ散歩」 池内紀川本三郎/毎日新聞出版