記憶のかけら–宿での一時

暑さ対策、ベッド確保、まち歩きを考え、早朝日の出前後に宿を出る。従って次の宿には昼前後に到着する。宿での過ごし方は様々である。


修道院附属のアルベルゲでは、夕食前の一時エントランスの広間に集まり歌の会が始まる。まずは海外からやってきた修道女がギターを爪弾き讃美歌の合唱から始まる。その後は、世界の各国からやってきた人たちがお国の歌を披露する。私は日本からのご夫婦と共に、多分”さくら”を歌ったと思う。疲労感は残っているが大きな声を出すと、疲労感は少しづつ薄らいでくる。

f:id:peregrino:20211215162130j:plain

2012年9月15日 お国の歌を披露  スペイン/Terradillos de Templarios「フランス人の道」

 

多くの人は朝早くから歩き始める。時には到着時にレセプションが始まっていない場合に出会う。その時は慌てず騒がず宿の前に座り込んで話し込んだり、昼寝をしたりでのんびりと時を過ごす。これも旅の一部である。日差しは強いが時どき吹き抜ける微風が心地よい。

f:id:peregrino:20211215161551j:plain

2013年5月21日 レセプションを待つ ポルトガル/Rubiaes  「ポルトガルの道」

 

途中で出会った子供連れの巡礼者一家が宿に到着した。小さい子はポニーの背で、大きな子は歩きながら巡礼を続けている。シャワー、洗濯を済ませ、宿の中を流れる小川で水浴びを楽しんでいる。そばで眺めていると、旅そのものが日常の生活になっているように見える。いかにもフランスらしい。

f:id:peregrino:20211217174629j:plain

2018年5月18日 揃ってストレッチ フランス/Livinhac le-Haut  「ル・ピュイの道」

 

塩の道から少し外れたところの、民家のオーナーと若者が経営するゲストルーム「梢の雪」を宿に選んだ。周りにあるのは緑だけ。廊下にポツンと座って静かに時を過ごす。それだけでここを選んだ甲斐があったと思った。しかし、満足感はさらに高まった。

夕食前に宿の周りで食材の採集。その後、車で近くの温泉で日帰り入浴の送迎。宿に帰ると囲炉裏を囲んで皆で夕食。夜は雑魚寝。翌朝は近所の養鶏場でうみたての地鶏の卵を確保し、新緑を愛でながら風を感じながら卵かけご飯の朝食。

f:id:peregrino:20211215155933j:plain

2017年5月21日 風を感じながら 長野県/北安曇郡小谷村中土 「塩の道トレイル」

 

一人の人間が見られるもの、行ける場所は地上のごくわずかしかない。だからこそ私はその地に自分の足で立ち、見て聞いて感じて考えて生きていたい。そうやって私は自分の一生を過ごしたい。

  「途上の旅」 若菜晃子/KTC中央出版