記憶のかけら–宿

国内外で様々な宿のお世話になった。宿も旅の大きな要素である。宿を選ぶ時、その土地の歴史や生活を窺わせる宿を選ぶ。しかし、年金頼りの長旅ゆえの制約からやむをえず安宿に頼りがちになる。当たり外れはあったが、多くの宿は何らかの記憶として思い出せる。

 

スペインでは、アルベルゲ(公営、民営の巡礼宿)からパラドール(国営ホテル)まで宿を選択できる。多くの人は料金が安く、一定のサービスレベルが確保されている自治体、教会、修道会運営の公営アルベルゲを利用する。予約不可の先着順、連泊不可、消灯時間、ドミトリータイプの2段ベッド、共同バス・トイレ等の制約がある。ただし、世界中からの巡礼者とのフランクなコミュニケーションは何ものにも変え難い。

牛追い祭りヘミングウェイの「陽はまた昇る」で知られるパンプローナの宿はなんと教会のリノベーションであった。どんな夢を見るかと眠りについたが、疲れのためもあり熟睡の後に目覚めた。5ユーロでは望みが大きすぎたか。

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2012年9月3日 Albergue de Jesus y Maria  スペイン/Pamplona 「フランス人の道」

ポルトガルでは巡礼者が多くないせいか巡礼宿は少ない。そこで、消防署などの公共施設も巡礼者を受け入れている。ある街でキリスト教関係の老人ホーム”Santa Casa da Misfricrdia(慈悲の聖なる家)"のお世話になった。フランス人とイタリア人との相部屋であるが、清潔でゆったりとしており全く問題なし。ミサの後、食堂で入居者と共に夕食をいただく。料理は美味しかったが、当然ながら量が少なかった為外のレストランで足らず前を補給する。老人達に囲まれて穏やかな半日を過ごした。言葉の問題はあるものの、地元の人達の様々な生活に触れることも我が旅の大事な要素である。因みに、日本人は昨年二人1組、今年は私が二人目とのことであった。

天才バカボンではないが、「これも良いのだ」。

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2013年5月15日 老人ホーム泊 ポルトガル/Sao Joao da Madeira 「ポルトガルの道」

 

ブログであるGite(巡礼宿)を知った。アルマニャックのカーブを持つ農家宿である。ぜひにと、途中のツーリズモから予約を入れた。

周囲には葡萄畑が広がり、あちこちで色々な動物がうろつくのどかな農家宿である。夕食前、カーブに集まった宿泊者の前で主人が誇らしげに解説を説明をする。ほぼ理解不能。次々とブランディーやワインが振る舞われる。大いに受容可能。その後、食堂で経営者夫婦と共に夕食が始まる。隣接のキッチンではご両親も食事をしている。フランスの農村生活を垣間見た。因みに、一泊二食32.5ユーロであった。

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2018年5月31日 GIte-Accueila a la Ferme フランス/Tollet 「ル・ピュイの道」

 

熊野古道紀伊長島で材木商が材に拘った築50年の古民家で一夜を過ごした。NPO法人が運営する宿泊施設。県会議員で保育園を経営する方が邸内を案内してくれる。そこここに気の香りが漂っている。定員10名ながら当日は2名で、洋室仕立ての一番良い部屋を提供された。素泊まり六千円であった。個人的には納得であった。

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2016年5月15日 ゆうがく邸 三重/紀伊長島熊野古道 伊勢路


ヴィンテージというのは、ブドウの収穫(年)をあらわす言葉で、この年のワインは出来がよいとか悪いとか、当たり年だとか外れだとか言って比較することが多いが、私は、これも比較して優劣を競うものではなく、ヴィンテージとはその年の気候を記憶する指標であると考えている。

たとえば2019年は、白と赤の収穫の間122日間だけ雨が降り、それが千曲川を氾濫させた。あの自然の力を思い出させるヴィンテージだと。

 「明けてゆく毎日〜」  玉村豊男/天夢人