不要不急の百貨店

9月24日、毎年出かける日本橋三越本店の「日本伝統工芸展」に今年も足が向く。まずは日本橋の先の墨田区横川の「たばこと塩の博物館」まで足を伸ばす。最寄りの地下鉄本所吾妻橋駅を地上に出ると目の前に東京スカイツリーが聳え立っている。

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私の旅の決め事として、訪れたところでは可能の限り高いところからの眺望を、その”まち”の記憶として脳内に刻み込む。東京転勤時には何はさておき東京タワーに上がった。しかし、このスカイツリーにはなんとなく食指が動かない。だが、街歩きの途上で垣間見えるその姿には興味を持って見入っている。

博物館への途中の嘗ては重要な流通路であったであろう旧大横川は水路は分断され、名ばかりの大横川親水公園と化している。区営の無料釣り堀では私同様巣篭もり逃避の高齢者で賑わっている。

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博物館は渋谷から移転してきたこととは関係ないとは思うが、周囲の風景と不釣り合いな佇まいを感じさせる。

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展示は、日本におけるモダンデザインのパイオニアとして知られる杉浦非水(1876〜1965)の「杉浦非水 時代をひらくデザイン」である。

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三越呉服店図案部初代主任を務め、彼の手がけたポスター等はほぼ1世紀後の今日の三越にも通じるものを感じさせる。私にとって年齢的にはほとんど馴染みのないアーティストであるが、その構図や色使いには全く古さを感じさせない。

 

常設店では本業のたばこと塩関連の展示があり、嘗てスモーカーであった私であるが、今では懐かしさを覚える展示である。。

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我々は塩は海のものだとの思い込みがあると思うが、展示の中では岩塩が幅を利かせており認識を新たにする。

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日本橋三越本店に向かう。「日本伝統工芸展」は文化庁他の主催で

「伝統工芸は、単に古いものを模倣し、従来の技法を墨守することではありません。」

「歴史上、もしくは芸術上特に価値の高い工芸技術を、国として保護育成する。」

との主旨のもと、昭和29年以来、陶芸、染色、漆芸、金工、木竹工、人形、諸工芸の7部門の入選作品の展示を行っている。

高い技術力や洗練された芸術的センスを満喫できる。受賞作品にはさすがと思わせられたが、ここではそれに囚われず私に何かを訴えかけてきたと思った作品を紹介する。

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陶芸部門のこの作品にスペインの片田舎での夕焼けを思い起こした。

 

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木竹工のこの作品は形と色に見惚れてしまった。

 

 

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見る角度で変化が楽しめる漆芸である。

 

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華やかさは無いが、しみじみとした気持ちにさせられた。

鑑賞は楽しめたが、駒場日本民藝館の民芸品で感じた生活感を感じさせるものがないのに物足りなさを覚えた。

 

「私はこう思う」という言い方と、「私はこう考える」という言い方は、普段あまり区別されません。「思う」とは主観的な行為で外からは理解できないこともありますが、「考える」ことは客観で外から理解できます。  小林康生(和紙職人)

  「くまの根」 隈研吾編/東京大学出版会