出会った橋ー塩の道-2

安曇野にはあちこちに水路が張り巡らされている。その脇の小道を歩いていると静かさのなかで微かではあるが耳に響く水音が心地よい。北アルプスの残雪が産み出す豊かな水流である。

24日、早朝の心地よい空気を吸いながらわさび田の水を集める万水川沿いをひとり歩く。

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名水百選に選ばれた安曇野わさび田湧水群に出会う。北アルプスの雪解け水が扇状地の地下を遥々流れこの辺りで湧き出している。澄み切った水面に池に架かる橋がくっきりと映り込んでいる。

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雪解け水を引き込んだ田んぼは田植えが終わったばかりである。映り込む山並みは天気が良ければと思わせる。

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あちこちで出迎えてくれる道祖神は路傍にあって当初は外来の疫病や悪霊を防ぐ神であった。後には縁結びの神、旅行安全の神、子供と親しい神とされ、男根形の自然石、石に文字や像を刻んだものなどがある。

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松本市の市街地に入ると明治九年に完成した旧開智学校に出会う。当時は重文であったが令和元年には国宝に格上げされた。当然擬洋風建築の建物が主役であるが中に展示されている展示物にも興味深いものが多い。

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松本城もよかったが明治21年の造り酒屋を移築し「中町・蔵シック館」として開放している土間の上部吹き抜けの梁組はどこかの美術館で出会った絵画を想起させ、感動を覚える。

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市街地内あちこちには嘗ての住民の生活を支えた湧水が今でもこんこんと湧き出ており、市民に潤いを提供している。

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宿のゲストハウス東家の各部屋には地元の若手芸術家の作品がごく自然に展示され、旅の疲れを忘れさせてくれる。

 

25日、両親の法事の為広島へと向かった。宿の玄関では物言わぬ猫が見送ってくれた。

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同祖神の由来は、中国古来の旅人守護の信仰が仏教とともに伝わってきた際、もともと日本にあった賽の神信仰と融合したのではないかと考えられる。(中略)結界の役割を担う。

村境いや辻、また橋の傍らに道祖神が祀られる理由もそれだ。

賽神として特に好まれたのは「双体道祖神」だった。男女の寄り添う姿、ないし男女合歓像である。

さて、真摯な祈りも、欲によって拡散するのが世の常。双体同祖神はその姿から、縁結び、夫婦円満、安産、子孫繁栄と、ご利益が増えていった。

   「中野京子が語る 橋をめぐる物語」 中野京子/河出書房新社