光で描かれた絵画

六本木の富士フィルムフォトサロンの日本建築写真家協会展「光と空間 建築の美 」に出かけた。建築物の撮影を業としている方の作品の為か建物が主役で説明的なものが大半を占めている。その中で異色の一点が目に止まった。"Qu'est-ce que c'est"と題し、ルーブル ランス美術館で撮影したものである。平面上に置かれた作品を赤いパンツの少女が覗き込んでいるもので、一見すると美術館内での点景写真と思われた。しかし、近づいて見続けていると私にはこれは建築写真だと納得できた。

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真ん中の写真が"Qu'est-ce que c'est"

私は対象物が単に美しいとか面白いとかに留まらず、それ以上の何かを感じそれを手元に留め更に誰かと共有したいと思った時にシャッターを切る。撮影者を捕まえそのあたりの事について話したところ、その方も私と同じ考えで敢えてこの写真を出展したとの事であった。「私も昨年ランスを訪問したがこの美術館は残念ながら見逃した」と伝えたところ、「貴方の訪れたランスは大聖堂で有名なReimsランスであり、私が行ったランスは更に北のベルギー国境の嘗ての炭坑の街Lensランスです。市の資金でルーブル美術館の分館を誘致し地域振興に成功した。」との事。カタカナでは同じ表記だがフランス語では全く異る。RとLの発音が不得手な日本人のニアミスであった。

 

ところで、Reimsのノートルダム大聖堂後陣の最奥でシャガールのステンドグラスに出会った。戦災からの修復の一環としてシャガールに依頼された。旧来のステンドグラスの中にあって異彩を放つ強力な存在感があった。深いブルーでありながら明るさを感じさせる独特の色使いが印象的で、まさに光で描かれた絵画であった。

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ノートルダム大聖堂  ランス  2018/06/10

ステンドグラスは文盲の庶民を信仰に導く為に聖書をビジュアル化したもので、名もなき職人によるものが多いが、シャガールは欧米各地にステンドグラスを残している。ル・ピュイの道巡礼路途上のモワサックにも、うっかりすると通り過ぎてしまいそうな小さなステンドグラスがひっそりと佇んでいた。モチーフは抽象的なものであったが、さすがと思わせた。

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サン・ピエール教会堂  モワサック  2018/05/27

Reimsには藤田嗣治が建造し、夫婦で眠っている礼拝堂がある。アクセスの良くない場所でありながら多くの人が訪れている。小さなお堂であるが内部の壁面にはフレスコ画で覆われている。その中にはフジタのステンドグラスが見られる。大聖堂のステンドグラスほどの強烈な訴求力は感じられないが、独特の色使いでジンワリと染み込む感があり、長旅で疲れた心身が休まるのを覚えた。

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フジタ礼拝堂  ランス  2018/06/10

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因みに、ルーブル・ランスは金沢の21世紀美術館等の多くの美術館を設計したSANAAによるものであり、上記の写真家は最寄り駅からの1.5kmのアプローチの並木と美術館の外構にえらく感動していた。実現の可能性は低いが、再度の訪仏があるとすれば昨年 ストで訪問を諦めたルーアン、修復中で閉鎖されていたクリューニー美術館、イベントで閉館されていたモロー美術館、TOTO GALLERY MAで出会ったバルセロナ郊外のRCRの「ラ・ヴィラ」に加えてLensのルーブル・ランスも訪問リストに加えておこう。

そうだ、画家のステンドグラスと言えばル・コルビュジエ。フランス東部のロンシャン礼拝堂も訪れたい。

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