Armagnacの宿

「ル・ピュイの道」の巡礼行は32日であったが、前後の寄り道を加えて39泊41日の旅であった。巡礼中の宿は主としてGiteと言われるフランス版のお遍路宿であり、ベッド数は大半が10〜20と小規模で、男女共同のドミトリータイプである。食事を提供する家族経営の民営と自炊主体の公営があり、料金は2食付きでほぼ€30〜35,素泊りでほぼ€15〜20で公営がやや安めである。スペインの宿albergueと異なり予約が効く為、収容力が少ない村や観光地の宿は国内からインターネットで予約し、後は現地の観光案内所に予約をお願いし、2〜3箇所を除いて希望通りの宿に宿泊できた。

中でも満足度の高かった2〜3の宿を半年後の今思い起こしてみる。

「ル・ピュイの道」巡礼のブログで気になる宿に出会った。コニャックと並ぶブランデー産地のアルマニャック地方のカーヴを持つ宿で日本で言う"農家民宿"である。ブランデーには特段の知識もこだわりも持たぬ私ではあるが、普通の観光では触れる事はないフランス人の生活を垣間見えるのではと宿泊を決めた。人気が有るらしいがメールアドレスは無く、現地の観光案内所office de tourisme から無事予約。

アレクサンドル・デュマの"三銃士"  のダルタニアンがパリへと旅立ったとされるCondom。中央広場の大聖堂前には立派な銅像が建っている。因みに名前から類推される様にコンドームはこの街発祥と言われている。興味深い街であるが先を急ぐ。途中から巡礼路を外れ以前紹介した"美し村"Larressingleに立ち寄る。やがて人家も人影も見当たらなくなる。少し不安を感じた頃ブドウ畑の中に宿の看板を見つけた。そしてその先に一軒の農家が佇んでいた。ここが今夜の宿。

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夕食までの時間目的も無く付近をぶらつく。木陰にキャンピングカーを見つけた。ブログを書いた人は予約を取れなかったが何とか頼み込んで此処にベッドを確保したとあった。

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敷地内のあちこちでは小型の馬やロバが悠然とうろついており、七面鳥?や 猫が昼寝をしている。暫くの間長閑な時間を満喫する。

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夕食の時間が近づくと嘗てのマドモアゼルが湧き出してきた。農家に付随するカーヴで 夕食前のブランデーの試飲の時間である。

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カーヴの中に入ると家族経営のためなのか樽の量はそんなに多くない。フランスの一般的な農家を実感する。オーナーが説明を始めるが全く理解不能である。しかし、屋内に漂う芳醇な香りと目の前に並ぶボトル群で十分である。そして何種類かのブランドが供される。観光地での試飲と違いエンドレスで次々とグラスに注ぎ込まれる。結構出来上がっていよいよ夕食となる。

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食堂の長いテーブルに自由に席を占めるが、両端にはオーナー夫妻が座り食事を共にする。これが家族経営の宿の一般的な夕食である。

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隣のキッチンではオーナーのご両親も密かに食事を共にしていた。

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料理は所謂ローカルフードであろうが味とボリュームは満足である。

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味はシンプルであり物足りない場合は塩胡椒で調整する。

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デザートのケーキにもドボドボッとブランデーが注ぎ込まれる。

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フランス語とほんの少しの英語の長い 晩餐であったが十分に楽しみ、フランスのライフスタイルの一端を垣間見る事が出来た。

壁に貼られた価格表が目に入った。一般的な価格は知らないがどうも安価な様に思えた。田舎の小規模の農家の現地価格であろうか。

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灯りのない外に出ると静まり返った空気の中で濃くて青い空が目に沁みた。

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この宿の選択は間違いなかった。