出会った橋ー銀の道–1

紀伊国屋書店でのちょっとしたキッカケでサンチャゴ巡礼「フランス人の道」に出かけ、さらなるキッカケに「ポルトガルの道」,そして「北の道」へと予定を越えた歩き旅に誘い出された。

2014年の暮れ、写真を見ながらそれまでの歩き旅を振り返っていて、突然Salamancaで見かけた「銀の道」を示す黄色の矢印が思い浮かんだ。そして、あの道を歩けば何となく続いてきたサンチャゴ巡礼に、一区切りつけられると思い至った。

アマゾンで入手したガイドブックは今回もドイツ語であった。この巡礼路は有史以前から羊飼いたちが踏みならした道で、古代ローマ時代に主要な交易路となった。途上にはローマ帝国の遺構が点在している。スペイン北部で採掘された銀を輸送したことから"銀の道"と呼ばれるようになった。

2015年5月21日,二度目のSevilla。市街地北部に面白いものがあると知り出かけた。  ローマ時代の住居跡の上空に巨大な木製のモニュメントが浮遊する。

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エレベーターでモニュメントの上に上がり、遊歩路を歩きながら360度展開する眺望を愉しむ。まるで雲の上にかかる橋を渡り歩く感覚を覚える。

 

 Sevillaを後にし、2時間近く歩くと左手に紀元前に築かれたローマの植民都市の遺跡Itaricaが現れる。世界史の授業で聞いたトラヤヌス帝、ハドリアヌス帝が生まれた町だそうだ。こんな辺境の地から皇帝が出るローマ帝国は私の想像力を超える。多くの遺構の中でも床に描かれた鮮明なモザイク画が印象的であった。

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巡礼路は柵で囲まれた放牧地を縫いながら続く。牛、豚、羊、山羊様々であり犬が管理している。

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土地が痩せているため放牧地を抜けても人影が見当たらない広大な荒野が続く。40度を越える強い日差しの中を一人黙々と進む。

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5月30日,ゴールは紀元前ローマ帝国の属州ルシタニアの州都として建設されたMerida。現存している多くの遺構をじっくりと愉しみたいと、歩きは約15kmで10時過ぎには街の入口のローマ橋が見えてきた。

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連なる不揃い感のある橋脚アーチがホッとさせる。ローマ帝国の植民都市は防御のためか大きな川の側に建設され、橋のたもとにはアルカサバ(城塞)が建設されている。橋は歩行者専用であるが、整備が行き届いているせいか、歴史の趣きが感じられない。

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宿に直行するが午前の為か入口のドアは施錠されている。ドアをノックするが反応はない。通行中の人に事情を話し電話をかけてもらった。すると管理人がドアから顔を出した。外出したいと言うと施錠後に入口脇の郵便受けに入れておけと鍵を渡された。アバウトである!

 

「創造というのは記憶である」とは映画監督の黒澤明が好んで使っていた言葉である。彼は著書「悪魔のように細心に、天使のように大胆に」で次のように語る。

「自分の経験やいろいろなものを読んで、記憶に残っていたものが足がかりになって、何かが創れるんですから、無から創造できるはずがない。だから僕は若い時、ノートを片方に置いて本を読んだものです。そこで感じたもの、感動したことを書き留めていく。そういう大学ノートがずいぶんあって、シナリオで詰まるとそれを読んで書く。するとどこかに突破口がある。セリフ一つについてもそこからヒントを得て書いていった。」

     「光の教会  安藤忠雄の現場」  平川 剛/建築資料研究所