6月26日 何処で 何を

2014年6月26日

5月23日,フランスとの国境の町Irunに別れを告げ、スペイン北部の巡礼路「北の道」を西へ西へとひたすら830kmを歩き32日目の6月23日にSantiagode Compostelaに辿り着いた。後は乗り物を足としてのご褒美の旅である。スペイン王国成立の地Valladolidを経て昨日学術都市Salamancaに入った。そして今日は標高1,117mの要塞都市Avilaに向かう。

訪れた街では住民の生活を体感する為必ず市場に向う。そこで午後のバス便までの時間、昨日に続く街歩きの途中市場に立ち寄る。牧畜が盛んな国だけに加工品を中心とした多くの肉屋が点在する。

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そして、内陸の都市でありながら魚屋も多く、新鮮な魚がそのままの姿で並ぶ。

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その並べ方も美的でお国柄が伺われる。

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 下拵えは日本の様な包丁での丁寧なものでなく、鋏を使ったおおざっぱなものには驚かされた。

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Avilaの街はヘラクレスが建設したとの伝承があるが、実はローマ帝国の植民都市が起源で、全長2.5kmの城壁に囲まれ、88の塔と9の門からなっている。現在のものはローマ時代の石塀の上に築かれたもの。一時はイスラム教徒に占領されていたがレコンキスタでとり返した。戦乱を繰り返しながら出来上がった国の歴史を実感する遺構である。

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城壁の上は遊歩路と成っており、歩きながら周囲の雄大な景色を楽しむ。近景の建物の上部にはお馴染みのコウノトリが巣作りをしており、遠景には広大な荒野が展開している。

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強い日差しが描く城壁の地上絵はリアルな城壁と共に楽しめる景観となっている。

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中世に建てられたゴシック様式のカテドラルは要塞の様な外観を呈しており、当時の時代背景が窺える。堂内に入ると白地に赤の地元産石材に包み込まれる。今まで経験したことのない祈りの空間を体験できた。

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2015年6月26日

Silledaの宿を出ると「銀の道」は200m以上の谷を一気に下り一気に下る最後の難所。並行して疾るスレンダーな構造の高速道路は周りの自然とすっかり馴染んでいる。

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Auteiroの宿に着くと石積みの外壁が迎えてくれた。石の文化の国で巧まずしてアートになっている。石垣フェチの私には嬉しい歓迎である。

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宿ではアメリカからやってきたと言う72歳 の女性に出会った。Sevillaからここまで990kmの道を54日間かけて一人で歩いてきたと言う。明日はいよいよ聖地Santiago de Compostelaだが、特段の気の高ぶりも無く淡々として会話に応じてくれた。

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前後しながら歩いてきたフランスの男性は若い男女と話し込んでいる。言語の障害も有りそこに素直に加われない私に歯痒さを感じる。

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明日には後期高齢者37日の頑張りで1,010kmの「銀の道」と別れを告げる。

 

めいめい"旅"についての哲学と叙情詩を持つ。

それは料理や、恋や、夕焼けとおなじように徹底的に個人的で偏見である。

無邪気でありながらそれゆえに深刻である。

他人につたえようがないから貴重であり、無益だったとしても、だからこそ貴重なのである。

若き日に旅をせずば、老いての日に何をか語る。

そういうものですよ。

                          (「いい旅とは何だろう」より  1974年初出)

                                                  「開高健のパリ」       開高健/集英社