出会った牛
馬の絵で知られ文化勲章を受賞された坂本繁二郎氏の展覧会と講演会に出かけた。氏の名前は聞き覚えがあるものの、作品には特段の関心は持っていなかったが、地元の練馬区立美術館という事で足を向けた。日本画から油絵に移ったという事からなのか全体的に淡いタッチの作品であった。年代的にモチーフが牛、馬、能面、月等と変化しているが、若い時期に描かれた牛の後姿の絵で光と陰の表現や紫色の色使いが印象に残った。
そう言えば、私はスペインで同じ様な姿の写真を撮っていた事を思い出した。
巡礼路を歩いていると、前を歩く人の後姿特にヒップに視線が行く。欧米の方、特に女性、そして特に年配の方は立派なヒップをお持ちで、その力強い歩きには羨ましさをも感じた。そして、その姿がいつも牛を連想させる。時にはビフォーアフターも楽しめる。
スペインと言えば闘牛であるが、スペイン最古のロンダの闘牛場では場内がミュージアムになっている。
白い村ミハスの集落内にあった小さなミュージアムにはローカルの闘牛場の多くのジオラマが楽しませてくれた。
セビリアで通ったバルでは闘牛の剥製はまるで生きてるかの様に迫ってきた。
マドリードのソフィア王妃芸術センターのゲルニカにも牛が描かれているが、あまり人が行かない別館の野外には一角獣に化した牛がいた。
隣のポルトガルはリスボンの地下鉄のホームの壁面にも力強い牛がいる。
スペインでは牧畜が盛んで、郊外に出れば方々で放牧が行われており、そこを縦断する巡礼路を逃亡防止の柵の扉を開け閉めしながら進んで行く。羊や豚が多いが牛も見かけられる。地方によって風貌が異なっており、いつまでも続く単調な歩きに変化を与えてくれる。
フランスは農業国なので放牧はあまり見かけないが、フランスらしいモダンな装いの牛がいた。
背後のピレネー山脈をバックに草を食む姿は絵になる。
そして、巡礼路の前方に悠々と佇んでいる牛を見かけた時には、どうしたものかと立ち止まってしばし考え込んでしまう。