一年金受給者 日常の文化的生活

 この所の年金騒動で私に分かったことは「年金制度は決して破綻しません。年金保険料の納入、税金の投入が継続する限りは。あとは、各自が破綻しない様自助努力に励んでください」ということであった。

 

暮らしのセイフティネットをもはや国家に期待できないという不安を、人びとはつのらせている。セイフティネットは自前で準備するしかない、と。

             濃霧の中の方向感覚   鷲田清一/晶文社  (削がれゆく国家  中日新聞   2015/01/12)

 

昼食後、地下鉄最寄り駅の豊島園駅に向かう。「練馬区にあるのに何故豊島園なの?」と揶揄する向きもあるが、千葉県にありながら東京ディズニーランドと言うfake遊園地と違い、嘗て豊島氏の一族が築城した旧練馬城の跡地に立地したと言う立派な謂れのあるfact遊園地である。

閑話休題本郷三丁目で下車し、春日通りをぶらぶらと国立現近代建築資料館へと向かう。「世界のANDO」の"安藤忠雄 初期建築原図展"が開かれている。 

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1970〜80年代の作品の図面と模型が展示されている。空間の発想はもとより、平面図に断面図/アイソメトリック図等を重ね合わせ三次元性を高めた精緻で美しい図面はそのダイナミックさに感覚を揺さぶられる。クライアントも同じ様な感覚に陥っていたに違いない。

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光の教会  1989年

来場者には 建築を志す学生が多いが、海外からの若者もチラホラ見かけられる。

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久しぶりに安藤作品の原点に触れた様に感じたが、個人住宅や教会が大半である事からも一般の人にも楽しめる展示であると思った。入場は無料である上、希望者にはカラーの立派な図集も提供された。税金で賄われているとは分かっていても、文化庁の太っ腹に感じ入った。

 再び春日通りを歩き上野公園に向かう。不忍池畔に出ると、梅雨間の強い太陽光の下で青々とした蓮の葉が一面に広がり、都心にありながら壮大な景観自然を楽しめる。

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お山に登ると今を盛りのインバウンドの雑踏に呑み込まれる。次に向かうは東京国立博物館である。特別展"国宝 東寺ー空海と仏像曼荼羅"は混雑を避け今回はパス。特別企画"奈良大和四寺のみほとけ"と題して奈良北東部の岡寺、室生寺長谷寺安倍文殊院の国宝、重文の展示を行っている本館に直行する。

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肩書きが付けば素直に納得する私であるが、京都の仏と何となく趣の異なる奈良の仏に暫く魅入る。手元で時々眺めてみたいと思ったが、例により理由不明の撮影禁止。本館には何度も訪れているが、時々展示替えがあるのでゆったりとした内部をぶらぶらと回遊する。ふと目にとまった異様な仏像。ネパール?のもので阿修羅像の流れの様に見える。説明は兎も角その異様な姿の面白さにパチリ。ガラス越しであったが撮影可であった。

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次なるは、国立西洋美術館。企画展"松方コレクション展"を開催中である。此処でも常設展示場の日本・フィンランド外交関係樹立100周年を記念して開催中の"モダン・ウーマンーフィンランド美術を彩った女性芸術家たち"へ。19C後半から20C初頭の女性作家の絵画や版画の展示に向かう。メジャーな芸術品を見続けていると、余り目に触れることのない作品には何か肩の荷を降ろした気持ちになる。 

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多々有る名画の中でチョット特有の色使いで描かれた怪しげなボナールの一点が妙に気になった。

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コルビジェ設計の世界文化遺産とあって建物自身も鑑賞の対象となっている。エントランスホールの高い天窓の僅かな光が荘厳さを醸し出している。一般的に美術館の展示室の天井は高い。いかし此処ではある意味極端に低い。しかし、それが窮屈さを感じさせず作品をより身近なものに感じさせる。流石である。 

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国立西洋美術館と言えば"ロダン" であり、美術館の内外に著名な作品が展示されている。その中でバルザックの像が目に留まった。

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昨年、パリでバルザックの家に立ち寄った時にもバルザックの像に出会った。その時は何となく眺めていたがヒョットするとあれもロダンの作品だったかも知れない。説明があればそれに従った評価をしてしまうその程度の鑑賞眼の私である。 

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バルザックの家のバルザック

とは言え充実した半日を過ごし家路についた。

 

因みに、一定年齢以上のシニアは東京国立博物館国立西洋美術館の常設展示場は入場無料であり、都営地下鉄、バス はシルバーパス保有(年間20,500円)。気が付けば家を出て帰宅するまで財布の紐を解くことは無かった。