Le Japonの宿 L'Alchemiste
国内の書店で入手可能なサンチャゴ巡礼のガイドブックは "フランス人の道"の「聖地サンチャゴ巡礼」(ダイヤモンド社)のみである。そこで、巡礼に出かけるにあたってはアマゾンで探すこととなる。従って運良く見つかっても英語版、ドイツ語版、フランス語版でしかも版も古い。
フランスの"Le Puyの道"はフランス語版。辞書を片手に悪戦苦闘しながらルートの確認や宿の選定をする。宿の情報にはコミュニケーション可能な言語が国旗で表示されていてその中に唯一の日章旗を見つけた。以前紹介した"フランスで最も美しい村"Navarrenxの宿L'Alchimiste-accueil benevole de pelerinと言う11人収容のボランタリーの宿である。何はともあれこの宿は見過ごせないと宿泊決定。しかし、宿泊がずっと先の為日本からの予約は不可。
巡礼29日目の6月6日、三日間連続の30km超えの歩行の後に無事到着。一週間前にOffice de tourismeから予約を入れてもらったので無事ベッドは確保済み。
入り口を入るが人影が無い。奥の方で人声がするのでその方向に進むと、数人の巡礼者がパラソルの下で談笑している。
年輩の男性が声をかけてきた。取り敢えずザックを降ろし椅子に座れという。テーブルの上にはハーブティーが用意されており、取り敢えずウエルカムドリンクだとグラスを差し出される。
日本語が通じるとのことでこの宿を選んだと言うと、以前日本人がボランティアで手伝ってくれていたが、既に帰国したとのこと。しかし、奥に入って再び姿を現した時には何とサムライになっていた。日本語は殆ど通じないが何よりのおもてなしであった。
ネコもボンジュールとばかりに姿を見せる。
何時ものように指定された部屋に荷を置き、シャワー、洗濯の後街歩きに出かける。教会のミサに参列して宿に帰ると既に夕食の準備が出来ていた。料理の一つに日本語で"良い方法"とある。意味不明であるが気持ちは十二分に伝わってくる。
各自料理を皿に盛り付け隣の部屋で思い思いの場所に座を占め雑談しながらゆったりと晩餐を愉しむ。フランスの夕食ではお喋りが不可欠でこれが延々と続く。我が日本人が最も苦手とするところである。しかし、毎晩続くと慣れとクソ度胸でお付き合いできるようになる。
既に6月に入っているがまだ暖炉には火が入っている。その前で主人が深々と頭を下げ宿泊者に感謝の意を表する。
残念ながら日本語は話せなかったが、まさしく"Le Japonの宿"であった。この宿で一番いいと思われる大きな部屋が単独で提供された。壁面には枯れた樹木を使った手作りのオブジェが飾られていた。
「おもてなしは決して日本の専売特許ではありません」
翌朝、部屋の片隅に何気無く置かれた箱に、感謝の気持を込めたユーロ紙幣を押し込み、一人静かに宿を後にした。
改装なった江戸東京博物館の「江戸の街道をゆく〜将軍と姫君の旅路〜」に出かけた。唯一撮影可能であり、最も目を引いた展示物は薩摩藩島津家の女乗り物「黒漆丸十紋散牡丹唐草蒔絵女乗り物」であった。因みに重量は約70kgと思いの外軽量である。
施された装飾にフランスでの一夜を過ごした部屋のインテリアが思い浮かんだ。
東京都美術館の「クリムト展」では、ジャポニズムの影響が強く伺える装飾にも通ずるものが感じられた。