予期せぬ出来事-4

 5月14日一面白一色の荒野を只一人黙々と歩を進めていた。
前々日、フランス人女性2人と共に宿泊地Aumont-Aubracに向け歩いていた時、1人が突然「明日は雪だ」と言った。 空はどんよりとしているものの既に5月に入っておりその時は冗談だと聞き流した。フランスに到着後テレビも新聞も見ていないし、おまけにインターネットが接続不良の為天気予報は全くno checkであった。翌朝、窓から外を見ると何と屋根に雪が積もっていた。
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驚きはしたものの1,000mを超す高地だからちょっとした異常気象かなとの思いで宿を後にした。寒さ対策としては今までの経験と荷物の軽量化から防寒具兼用のレインウエアくらいで手袋は持参していない。気温は余り低くないようで寒さは感じないが手がかじかんで動作は鈍くなる。比較的整備された道が続くが地道に入ると途端に歩行困難となる。
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この日は8時間の歩行であったが特段の支障は感じなかった。
宿で聞くと強い低気圧が押し寄せ季節外れの雪になったと地元の人も驚いていた。低気圧は停滞しており明日も雪との事。明日は標高が1,300mを超え巡礼路で最も高いところで、かつては「Aubracの荒野越え」と言われる難所であったらしいが、今では歩行路やサインは整備され、この季節には新緑や草花を愛でながら歩くとっておきのハイキングコース。世界遺産「フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」の指定区間となっている。
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「365 meditations sur les chemins de Compostelle」PRESSE DE LA RENISSANCE
しかし私にとっては状況は異なったようである。
 
暫くは雪のちらつく中を歩を進める。ゲートをくぐり牛の放牧地に入り進む。先を行く人があるらしく踏み跡が一つあるが、試行錯誤で歩いているようで余り頼りにならない。風が出て来て気温がグングン低下してくる。
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雪は降り続く。手がかじかんでカメラの操作も一仕事。周りを見渡しても人っ子一人見当たらない。取り敢えず木柵と石垣そしてGR65(ル・ピュイの道)の赤白の小さなサインを頼りに西へ西へと進む。雪に隠れた足元は水路やガレで不安定。捻挫に注意!大袈裟ながら万一の不安が頭をよぎる。
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彼方に避難小屋が確認でき一安心。小屋の中で小休止の後再び歩を進める。そして2時間にわたる悪戦苦闘の末、濡れ鼠のような姿であったが無事Aubracの集落に辿り着いた。熱い珈琲を体内に流し込んだ時初めて安堵の胸をなでおろした。
地球規模の異常気象の怖さと不測の事態の準備不足を身を以て実感した1日であった。