光と影

ヘミングウェイ研究の第一人者と言われる今村楯夫著の「スペイン紀行  ヘミングウェイとともに内戦の跡を辿る」に出会った。ヘミングウェイはスペイン内戦中、報道記者として現地から記事を送り、終息後に最高傑作と言われている「誰がために鐘が鳴る」を表している。

ヘミングウェイの足跡を追った著者の紀行文を縦糸に、ヘミングウェイの記事・作品を横糸に、内戦の実態を浮き彫りにしており、興味深い著作であった。

スペインは「光と影の国」と言われ、観光客はそれを実感するが、"ゲルニカ"や"キャパ"は耳にするものの「内戦」と言う「影」は素通りしてしまう。

王制から共和制に移行後、1937年から3年弱の間スペインを二分し人民戦線とフランコ将軍の国民戦線が戦った内戦は結果としてフランコ独裁政権へと繋がった。

ヘミングウェイは人民戦線と行を共にした。戦争、特に内戦は悲惨であり、ヘミングウェイも「敵味方の双方に見られる裏切りと腐敗の百鬼夜行ぶり」を手紙で慨嘆している。

「誰がために鐘が」の一場面で、私も訪れたロンダを想定した町での出来事の記述がある。共和国政府のゲリラとなった農民が国民政府側の町長をリンチにかけ、崖の上から川に向かって放り投げる。

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ロンダの「光と影」2015/07/08

深く長い歴史を刻み、美しい大地の国スペインを旅する喜びは、もっと単純にスペインを観光する眼差しで見ることから生まれる。その喜びを感じながら、「影」を見ることで、これまでとは異なるスペイン紀行が可能ではないかと思った。そんな思いに駆られてスペインの旅に出た。  「はじめに」より