街のエレベーター

ヨーロッパには多くの古い建物が現役で使用されており、エレベーターも古いものがそのまま使われている。利用にあたってはチョット腰の引けるものもあるが、デザイン的には興味深い。建物内ではなく街中のインフラとして自己主張しているエレベーターを幾つか見かけた。
リスボンのサンタ・ジェスタのエレベーターは、かのエッフェルの弟子による設計でゴシック様式。1905年から動いており当初の動力は蒸気エンジン。リスボンは急な傾斜地に街が展開し、下の街と上の街はエレベーターの他にケーブルカーや市電で結ばれており、それぞれが重要な観光資源となっている。観光客が足元で列をなしているが地元の人は見当たらない。当初の建設目的は街のインフラではなく観光施設だったと推測される。エレベーターを降り足元の透けた螺旋階段を恐るおそる上ると屋上は展望台となっており、観光タワーの走りでもあったのか。
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スペイン北部のバスク地方の小さな町Debaで同じ様なエレベーターを見かけた。古くは街道沿いの上の街が開け、人口が増えるにつれ海岸沿いの下の街ができ、双方をつなぐものとして設置されたものと思う。街の重要なインフラとして地元民が頻繁に利用している。雛には稀な洒落たデザインである。我々巡礼者はエレベーターで下に降り観光案内所で宿泊の手続きをし、鍵を預かり又エレベーターで上の街の宿に入る。さすがに翌朝は鍵を宿のロビーに置いて出かける。
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Bilbaoからビルバオ川沿いに下るとビルバオ港の手前のPortugareteに門型の鉄骨(高さ45m/幅160m)が川を跨いでいる。1893年に完成した世界遺産のプエンテ・コルガンテ(つり橋)である。ここにも街のエレベーターがある。推測であるが、ここに橋をかけるに当たって産業化が進む上流のBilbaoに向かう大型船の通行を可能とするデザインが求められた。それを解決したのがこれもまたエッフェルの事務所である。ワイヤーでゴンドラを吊り人と車を運ぶ。上部のブリッジ部分をそのままにしておくのはと、鉄塔部分にエレベーターを仕込み、観光橋にしたと思われる。ちなみにゴンドラは3.5€,渡し船は3.5€だがブリッジは7€であり、上に上がっても私以外誰もいない。
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もう一つ、Madridの「ゲルニカ」で有名なソフィア王妃芸術センター。本館は病院として建てられたものであり、裏側には2005年にジャン・ヌーベル(仏)により新館が建てられた。表にイアン・リッチー(英) による鉄骨とガラスの二本のエレベーターが屹立している。上り下りにつれガラス越しに周辺の街並みが目に入る。これはもはや一建物のものではなく街のエレベーターの風格を備えている。
最近「グレートトラバース」を頻繁に見ているせいか深田久弥の語り口がうつったようである。
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